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みなに幸あれのshoyatakahashiのレビュー・感想・評価

みなに幸あれ(2023年製作の映画)
3.6
この数週間考えていたこと。誰かの豊かさは誰かの貧困の裏返しであり、グローバリズム以降に拡大した貧富の格差によって、今日もまた誰かが誰かの幸せを奪って生き血をすすり、また僕や友人たちはそれを傍観していることしかできない。

この映画のテーマの一つはおそらく「現実を受け入れるべく夢を見る」であり、それはそのまま本映画の下津監督が以前撮影していた短編作品のタイトルでもある。その短編映画でも、老人が認知症かもしれないしエイリアンかもしれない奇妙な行動をとるのだが、最終的にはすべて受け入れ納得して、女優は笑みを浮かべるのだ。つまり『現実を受け入れるべく夢を見る』の主題は、世代や価値観を超えた他者への理解である。

この『みなに幸あれ』のストーリーは至ってシンプル。主人公が村へ行って、2つくらいの事件に巻き込まれるだけ。舞台設定もなるだけシンプルに、観客が不要な思考に首を突っ込まないように、補助線が引かれている。
下津監督が観客に観せたいのはあくまで演出であり、物語でもなければドッキリでもないことがわかる。そしてそれは、本作の中心となる(宣伝どおりの)「根源的な恐怖」ととても相性がいい。
(もしも『チェンソーマン』の世界観だったら、この映画における恐怖にはなんという名前がついただろうか)
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