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波紋のプライのレビュー・感想・評価

波紋(2023年製作の映画)
4.2
介護。放射線。新興宗教。障害者差別。そして、問題を持ち込む夫と息子。あらゆる問題を結集した混合体をブラック・ユーモアに仕立てたダークなヒューマン・ドラマ。

これだけ多くの問題をボーダーレスに繋いだ脚本が見事。家族映画は基本的に1家庭につき1問題といった様式だが、現実世界は違う。1家庭が2つや3つ、それ以上の数を抱えてることはザラにある。そういった意味で本作はリアル路線であり、映画の様式的には実験的。ただ、多くの問題を取り揃えて120分の尺にまとめた分、それぞれの問題を深掘りする事はなかった。介護と放射能はスルー気味。そういった点では諸刃の剣だった。とはいえ、1人の主婦があらゆる問題に揉まれるエンタメとして十分な面白さがある。

夫婦を演じた筒井真理子さんと光石研さんの演技、そして演出が素晴らしい。まず、光石さん演じる失踪から帰還した夫の無頓着ぶりが光る。「家に居るの嫌になって失踪したけど、ガンになって治療費を工面して欲しいから帰ってきた。金くれや」と話す動機から他人に対する思いやりの無さが説明的に分かる。だが、食事の際のクチャクチャ音や自分で治療費を稼ぐ事はせずにグータラしてる姿勢で更に他人に対する配慮の無さを体現している。ちょっとした嫌悪感が孕む仕草を筒井さんの視線と共に捉え、筒井さんの胸中と同化される。筒井さん演じる主人公の妻からは世間や家族から複数の問題を抱え込まされ、それに対する疲弊・怒り・宗教への縋りが言葉なくとも表情と素振りでヒシヒシと伝わってくる。その変遷を経て、内側に溜め込んだ感情がラストでスパークしてる。

登場人物たちがCGの水上にて口論する映像が逐一笑える。言葉を発する度にタイトルの通り波紋が広がり、ジョジョ顔負け(?)のビートを刻んでいる(?)。

主人公がのめり込む新興宗教も笑える。劇中の出来事的に成金臭が強いし、皆で踊る謎のダンスは『ウォンカ』のウンパルンパ演じるヒュー・グラントにでも踊らせておけよと思えるぐらい笑える。

何か事情がありそうなクレーマーを演じた柄本明さんに対する主人公の扱いには納得いかない。いくら事情を汲んだとしても、つけ上がらせる行為だけは許されない。一度許した途端に要求がエスカレートする。現実世界では絶対にやってはいけない。


⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像   :⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐
星の総数    :計16個
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