「コミック雑誌なんかいらない！」から遅れること6年、豊田商事事件をモチーフにピンク映画を、と言うにはその気概を感じ得なくて何で？ってなるけど林由美香の追悼特集に免じて。
フィルム劣化が菊次郎の背や顔にレーザー光で悪戯してるみたいで面白い。

ラストの猛ダッシュがマキノの高田馬場だった！

1985年に起きた豊田商事会長刺殺事件をモチーフにしたサスペンスタッチのピンク映画。しかし、なぜ事件から7年も経ったタイミングで映画のモチーフにしたのかがよくわからないまま物語は進んでいく。主人公の本多菊雄は、上司の紀野真人に命じられて、東京湾近くのバラックに暮らす紀野そっくりの浮浪者を張り込むことに。林由美香は浮浪者と共に生活している女性・由美を演じている。紀野が自身と瓜二つの浮浪者に執着する理由は、倒産間近の会社のケジメの付け方に関わっていた。浮浪者が死ねば、世間は紀野が死んだと思い込む。そうすることで、散々悪どい商法で儲けてきた自分を警察が追求することもなくなる…そういった筋書きである。上記の仕組みがよく分かりにくいため、映画を見ていてサスペンスの快楽に酔うことができない。それに加え、ヤクザ・牧村耕次による殺害シーンも滝田洋二郎の『コミック雑誌なんかいらない！』と比べると精彩に欠けたものだ。低予算・短期間のピンク映画にそれを求めるのは酷であることは承知の上だが、扱うのであればしっかり描いてほしかった。ラストも締まりがない終わり方で、見どころは夜の渋谷の街並みと、90年代の東京湾近郊の風景のみだった。