このレビューはネタバレを含みます
人肌の温度を感じる映画だった。
食べること、出すこと、それがまた食べものになっていくこと
生きること、死ぬこと、土に還ってまたいのちになること
あちらに向かっているようで、こちらから戻ってくるようなもの(?)
一般的な時代劇が"正史"だとしたら、この映画は市井の人々の文化史にあたるとおもう。
白黒の画面から、人のぬくもり、硯で墨を磨る感触、肥溜めのむっとする臭いまでするようだった。色が削ぎ落とされていたからこそ、温度やにおいや感触といった感覚をより鮮やかに感じたのかもしれない。声を失ったからこそ、他者が自分を必要としてくれる強い気持ちや自分が他者に想いを寄せる心の動きがより鮮明になるのかもしれない。
ところどころお茶目で軽快で、会場全体でくすっと笑いが起きるシーンもあって、雨に降られたりクソ食らったりおにぎり踏みつけられたり大事な人亡くしたりする生活のなかにもある面白味や、「ここ笑うとこだぜ」にしなきゃやってられなさみたいなものも描かれていてよかった。登壇してた佐藤浩市さんが、こうやって人と並んで観るよさがあるから百年後も劇場が残っていてほしい、ということをお話していたけれど、ほんとうにそうだなと思いました。