TakayukiMonji

658km、陽子の旅のTakayukiMonjiのレビュー・感想・評価

658km、陽子の旅(2023年製作の映画)
4.0
Filmarks試写会参加。TSUTAYA CREATOR’S PROGRAMの脚本賞を受賞した脚本の映画化。

菊地凛子の圧巻の演技。まずもって、彼女の存在がこの作品の大きな中核なのは間違いない。
途中まではアニエス・ヴァルダの「冬の旅」を観てるかのような厳しい現実にヒリヒリさせられながら、明らかにコミュ障の陽子(42歳独身)がひたすらに絶望的だが、658kmの旅(全く予期もしてなかった絶望的な旅)の中で、何かを掴んでいくのかいかないのか、ずっしりと紡がれていた。同じくカルチュアエンタテイメント配給だった「ドライブマイカー」とはまた違った味わいのロードムービー。
何かを諦めてしまった人も、人生の周回遅れに入った人も、“間に合わないかもしれない”と諦めてしまうよりも、ひとつ前に進み続けていくことで、どうにかなるのかもしれない。自分は全然立場も境遇も違うけれど、諦めてしまっていることはあるし、ヒリヒリと削られながらも、“明日からまた生きるぞ”という前に進む力がそこにはある。
ジム・オルークの音楽もとてもよかった。



以下、ネタバレ



陽子が後半のサービスエリアで、ヒッチハイクの紙にりんごの絵を書き込んだシーンで、少しだけ前に進んでいることがわかる描写が沁みる。車中の父親の幻想が、年老いて出てくるシーンも未来に進んでいるという確かな描写で沁みた。
竹原ピストルが出棺を待っててもらったエピソードは、“生きててよかった”の瞬間。
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