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しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜のななしのレビュー・感想・評価

4.0
よくネットで「しんちゃんやドラえもんやサザエさんで描かれる"ふつうの家族"が現代では"裕福な家庭"に見えるようになってしまった」みたいな言い回しを見かける。

本作はその手の言説になかば全乗っかりする形で、野原一家を「幸せな家族の象徴」として描き、その対比として悪役である派遣労働者(描写を見る限りアルバイトだが)の青年を「孤独な弱者男性」として描く。

金も友達も恋人もない、人生に楽しみも目的もない男が唯一、生き甲斐としていた地下アイドルが結婚を発表したことで、彼の絶望は決定的なまでに深まる。結果、たまたま手にした超能力を駆使して、彼は東京と埼玉で暴れ回る。しょうもないといえばしょうもない動機だが、同時に極めて今っぽいキャラクター造形にも思える。

踏まえて考えてみると、実にしんちゃんらしいふざけたサブタイトル「とべとべ手巻き寿司」にも意外に深い意味合いが見て取れる。なんのことはない。手巻き寿司とは「一家団欒の象徴」であり、そもそも独り暮らしの男性は手巻き寿司などしないのだ。

そういう絶望に対してしんちゃんがどう向き合うのか──ラストに提出されるメッセージはやや監督の思想が前傾化し過ぎている気がしないでもない。しかし、「頑張れ」が言いづらい昨今において、あえて真っ当に「頑張れ!」と叫んでみせたことにちょっと感動したのも事実である。

以下、気になったところ。

・刺身って2日目大丈夫?

・野原ひろしは35歳で、作中年代は2023年と明言されているので、映画での彼は1988年ごろ生まれのはず。となると、ひろしはバブル崩壊後のタイミングで子供時代を送ったはずで、「俺たちが子供の頃は頑張れば未来がひらけた」的なセリフはややおかしいのでは?
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