ふかぽん

君たちはどう生きるかのふかぽんのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます


見た!抽象的な表現が多く、初見ではよくわからないところも結構あった。しかし、アニメーション的見どころが多く、最後はストーリーでジーンときたので個人的には満足度高めである。タイトルから連想するような説教臭さはあまり無く、むしろオブラートに包まれた駿の優しさを感じた。

この映画は空襲警報のサイレンの音から始まる。
あ、風立ちぬのように戦時中の昭和の日本を舞台にやっていくのか!とまず驚く。今回のジブリは西洋や現代が舞台ではなかった。

警報を聞いて町の様子を確かめるために階段を駆け上がる、下りるのバタバタした走りのアニメーションがすごかった。
そして病院を目掛けて街を駆け抜けるシーン 宮崎アニメであまり見たことのない演出をやっており、ここも映像的面白さがあった。母を案ずる眞人の心理状態と、混乱する街の様子と炎が混ざり合っているようで良かった。


その先は身勝手な大人に振り回される子供、傷を負った子供の複雑な情緒のターン。夏子さんの弟ができるのよってお腹に手を当てさせる芝居で、ヒッ!となる。全然喋らない主人公真人。両親のキス、生々しい。死んだ妻の妹と再婚するの、ありなんだ。

マーニーみたいな感じで心に傷を追った子供がファンタジーの世界で立ち直っていく話なのかなとここでは思う。少年が主人公のジブリ、なんだか久々に見た感じがして嬉しい。

サギ、歯がある時点で明らかに普通の鳥でない。
サギとの対決が続く。
舌や目玉や鼻が生えてきてどんどん化け物じみていくサギ。うじゃうじゃでてくる魚やカエル。この辺もアニメならではの表現でおもしろかった。

タバコをくすねたり、老人と取引をしたり、クラスメイトにすぐつかみかかったり、自傷をしたり、所謂「良い子」として描かれていない主人公。ここがかなりのミソである。  

この後の「君たちはどう生きるか」の使われ方が興味深かった。この本は原作としてではなく、母が残したメッセージ、その後から始まる冒険の指南書のようなものとして登場する。なぜ彼はこの本を読んで涙を流し、行動を改めたのか。それは原作を読んだほうが理解が深まりそうだし、実際原作を読んでみたくなった。母からのメッセージを手紙ではなく、わざわざ本にしたのも駿の本へのこだわりを感じる。岩波文庫の絵、でかい。

そしてまさかの開始1時間ほどで異世界行き。現実世界でファンタジーをやっていく映画だと思っていたので、これは読めなかった。この辺から一気に千と千尋の神隠し的世界になっていく。

若桐子さんが千と千尋のリンさんを彷彿とする。
この先からは生と死の話が多くなる。魚の内臓表現がすごい。
鳥がいっぱいでてくる。
カカポみたいなインコが可愛かった。石の世界ではなく本当は温室で暮らしたそう。
人間を食べる鳥たち。
「わらわら」どう見てもコダマ
ハウルに出てきそうな西洋風建物、ワープドア。

終盤はだんだんセカイ系っぽくなっていく。
世界は危機に瀕しており、創造主(大叔父)の血筋を引くものだけが世界を救うことができるそうだ。祖先である眞人に白羽の矢が立つ。
しかし結局眞人は大叔父の誘いを断る。
自分は悪意の印をもっているからと、世界を救う力を持つ「悪意の無い石」に触れようとしない。それに元の世界に戻らなくてはいけないと言う。
大叔父は元の世界では醜い殺し合いばかりをしている、それでもよいのか?と問う。
眞人は元の世界でもサギやヒミのような友だちを作れば良いと答える。

うろ覚えだが、ここの会話。眞人なりの「君たちはどう生きるか」に対するアンサーだと思ったし、ここが物語のクライマックスに感じた。世界の残酷さを人との繋がりでカバーしていこうというメッセージはとても現実的で優しい。真人の「友達」に青サギが含まれているのも良かった。ヒミだけではなんとなく説得力が足りなかったと思う。

そして後継者が見つからないままインコの王さまの横槍が入り、あっけなく世界は崩壊する。悲壮感を感じる余裕すらない。ファンタジー世界の崩壊に諦念を持っていそうな大叔父、宮崎駿の自己が投影されているのだとしたら少し切ない。あくまで仮定だが、スタジオジブリも結局後継者が見つからず、今作が最後の作品になってもおかしくない状況なので、この顛末は重なる部分がある。

現実世界に戻り、鳥たちが舞う大団円ラスト。ここで登場人物の服に糞がかかりまくってたのが良かった。
自分の中に悪意があると自覚した主人公のように、人間の内面にも世界にも清濁両方の側面があるということなのだろうか。


私は完全に眞人視点で見ていたのだが、夏子さん視点で見たらまた違って見える話かもしれない。
彼女はなぜファンタジー世界に赴き、帰りたがらなかったのか。マタニティブルー、自分は姉の代わりであること、眞人という養子が増えたこと、色々な不安要素がありそうだが、その辺の内面ももっと知りたかったと思う。
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