はちみつレモン

君たちはどう生きるかのはちみつレモンのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.1
見た!!!


自分の生まれた年に公開された千と千尋。幼い頃から実家で何度も見てきたジブリ作品。あぁ、こうして最新作を劇場で観られる幸せ…

劇中、"君たちはどう生きるか"をずっと投げかけられ続けているような気持ちだった。

でも私はまだこのタイトルの意図を掴んだ気になれてない。(不幸にも手強い睡魔に何度も襲われた)
是非もう一回劇場に足を運びたいと思う。



〈2023.07.30 2回目鑑賞〉
最近あった出来事。
財布を忘れてICOCAの残高だけで都会に出てきてしまい、やろうとしてた事は何も出来なくて、家に帰るだけの残高も残っていなかった。無一文で都会にいることがとても苦しく感じた。どうやってお金を作ったらいいだろう。何か売る?物乞いする?通りすがりの誰かに事情を説明して頼み込む?持ち金が無いだけでなんとも頼りなく、自分はとてもこの場所に不適合に感じた。生きることってなんだろう、って考えさせられた。(結局、幸いにもバイト先が徒歩圏内にあり、オーナーから千円貸してもらい帰れた)
社会で生きるうえで、"社会的にまともであること"は息を吸うことのように当たり前に求められるようだ。


そんなことは関係なく。
作品を観て2回目、改めて今作は今までのジブリ作品よりとても文学的だと感じた。

アニメは自分たちの世界をメタ的に見つめるのにもってこいだ。普段気づかない自然の美しさに気付けたり、家族や友人をより大切に思えたりする。今度は現実世界がアニメの中のように見えてくる。

ジブリはいつも教えてくれた。

いつでも子供心(=初心)を忘れないこと。
いろんな人の立場に立って考えること。
間違いは認めて、直そうと努めること。
自分を親目線からも見てみること。
大切な人を守ること。

監督の宮崎駿と、自分自身と、いつも対話してきたのだ。
だから、君は私はジブリと共にある。いつも物語の主人公でいさせてくれる。

険しい世の中の生き方を教えてもらってきたのだ。


メタ的な要素から、一枚の画の泣きそうなほどの美しさ、繊細なピアノの音、泥土のぬかり具合まで、統一された「そう、これこそジブリ!」な世界観を感じる余裕があった。

キャラクターの性格や部屋の小物ひとつひとつに何かしらの意味があるからこそ、それを考えながら見るには大変カロリーが必要な映画だ。

⚠️これ以降、ネタバレっちゃネタバレです。



乗り物で緑に覆われた森に進んでいく。
物語の始まりは意外と分かりやすく明示されている気がした。

「眞人さんは初めてだから、表から入りましょうね。」
観客の私たちも屋敷に一緒に案内される。

覗き屋のアオサギ。嘘つきのアオサギ。
まるで子供の頃の自分を傍観(鳥瞰)するような目線。

包みを開いて出てきた昔ながらの缶詰を懐かしむ様子は、おばあさんたちにもそんな若い頃があったということを暗示させる。



「この世界は死んでる奴の方が多いんだ。」

夢の中にいるみたい。
本当に宮崎駿の私小説だ。

老ペリカンの言った、"地獄の海"とは現実世界で言うどこのことだ?

「あの塔はいろんな世界にまたがって建っているんだよ。」

炎で飛ぶ鳥を焼く母。
これは岡田斗司夫の予想だが、鳥=(ペスト流行時代の)マスクか?擬人化した鳥はなんだかイメージがピッタリだった。

「これで世界は1日は大丈夫だよ。」

「まだ道半ばだ。」

「それは墓です、木ではありません。悪意があります。」


悪意のない、自分の帝国を、塔を築く。

悪意ってなんだろう、って考えた。


この物語はこの形でしか在り得なかったはずで、宮崎駿(の心か頭の中かわからないが)と私たちを繋ぐ唯一の世界だ。

ここまできて、(数多くの作品を作ってきた中で)ようやく何も考えずやりたいことをやりたいようにできたのだというメッセージにも感じた。

作品づくりは結局はエゴを貫き通すしかないのだ。観た者は何も考えずに好き放題言えるだろう。けれど、その背後にあるのはとんでもなく長い時間の葛藤と、目視できない微々たる調整と、自分の本心の奥底との戦いで、本当の正解なんてどこにもないからこそ、私がやりたいのはこれだというのをどこまででも突き詰めていかなければならない地獄の作業、これこそが作品をつくるということだと思う。

もう数え飽きるくらいの挫折と試練の中で、一人ではできないと分かっていながらも、自分と他人という圧倒的壁に何度も打ち負かされて。そして絶望という名の液体にヒタヒタにされたみたいな感覚になって焼け焦げるような溜め息とともに誰もいない海の底までゆっくり沈んでいくんだ。
でも、一人でもより多くの人にこの物語を伝えなければならない。伝えなければ死にきれない。私もあのときはその思いだけだった。


映画館を飛び出して、エレベーターの中の鏡を見て、生きててよかった、と思った。
もしアニメの中にいたら、自分の運命は変えられないから。

さっき言った、何かを生み出すときの苦しい感覚。
でもね、それはまるで人生そのものみたいなんだ。そう思えてくるんだ。

君たちはどう生きるか?

きっと自分らしさを持ち続けて生きていれば、それを見つけてくれる人もいるはずだ。
自分の中の扉をまた新しく開いてもらえた気がするよ。
巨匠、ありがとう。




深夜にも関わらずふわふわの食パンにバターを塗って食べたいのはあれのせいかな。