しん

新生ロシア1991のしんのレビュー・感想・評価

新生ロシア1991(2015年製作の映画)
3.3
ロズニツァの『ドンバス』や『国葬』が好きなので、本作も期待していた。全体としては期待通りであり、超えてはこなかった印象。

1991年8月の共産党保守派によるクーデターは、教科書では一行で終わってしまう出来事であり、ソヴィエト社会主義共和国連邦の崩壊もペレストロイカの後づけくらいの扱いしかされていない。しかしクーデター前後の数日間を考えると、それまで表向きだけでも信奉(服従)してきた共産主義を捨て、その指導者たちを裁く決断を人民がするという劇的なものだといえる。数学者から映画監督へ転進する準備をしながらキーウでこの出来事を見つめたロズニツァ自身が、この出来事をどのように総括するのかが、本作の肝だったのだろう。

白眉はやはりレニングラード(サンクト・ペテルブルク)市長のサプチャークによるエリツィンを支持する演説の横に映りこむプーチンの映像だろう。さすがはロズニツァ。こういうシーンを見逃さない眼は、ドキュメンタリー×フィクション作品を撮るうえで欠かせない。

結局は裁かれなかったソ連共産党の指導者たち、その後のエリツィン政権期に現前したロシア史上最悪とも言われる経済危機、救世主プーチン、そしてウクライナ侵攻。あの日、広場に集まった群衆の夢はなんだったのだろうか。共産主義から決別し、市場経済に乗り出したロシアとはなんだったのだろうか。最後のシーンが国旗の交換であることに、ロズニツァの意図が見え隠れする。

旗(外見)を変えただけのことだったのだろうか。アフガニスタン侵攻のような国際法に完全に違反する侵略を繰り返し、人民を抑圧したソ連と今のロシアは何が違うのだろうか。大きな問いかけを残して、本作は終わりを迎える。ウクライナ戦争の開戦から1年を迎えるにあたって、見ておいて損のない映画だと思う。
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