ありきたりな女

岸辺露伴 ルーヴルへ行くのありきたりな女のレビュー・感想・評価

岸辺露伴 ルーヴルへ行く(2023年製作の映画)
5.0
※このレビューは、5/18の最速先行上映会にて鑑賞後にネタバレなしで書いています。

ネタバレ含むものは、以下に記載しておりますので、よろしければご覧ください。

https://sherry5honey7jouer.hatenablog.com/entry/2023/05/29/002343

本当に素晴らしい実写化の最たる作品だと思った。
NHKドラマシリーズからの圧倒的なクオリティと世界観が強靭なため、2時間枠のスクリーンに乗せても全く遜色ない。

むしろこれは映画でやるべきスケールだなと思うほど、ひたすらに画が美しい。タイトル通りのルーヴル美術館のその存在そのものの美しさ、大きさ、歴史の重さ、雰囲気…予告で「人間の手に負える美術館じゃあない」と出てきたその通りの佇まいは、絶対に映画館で観るべき。

ドラマシリーズから多用されていた、低い位置から見上げるような不可解な位置からのショットは今回も健在で、映画館の前方に座っていると、本当に露伴先生に見下げられながら「ヘヴンズ・ドアー」されている気持ちになる。これだけで映画館に行く価値があると思うくらい、正直どきどきして緊張してしまった…

しかし、本作の真髄はルーヴル美術館ではないところにもあったと思う。パリと対照的に、日本で撮影されたパートの自然の美しさや多湿な日本の環境が、岸辺露伴の過去の記憶の中のノスタルジーさや、ねっとりとした情感を伴った"私的な記憶"をよりリアリティのあるものに仕上げていた。
物語からしてもその過去から始まっている、という点で非常に大切なパートだし、昨日の舞台挨拶でも、高橋一生さんが「日本パートを見てほしい」と仰っていた意味がよくわかるので、かなり期待して観て問題ないと思う。
前半の日本パートにて、原作より瑞々しく初々しい露伴像を見せた、長尾さんのお芝居も良かった。

ネタバレができないのでもどかしいが、特に終盤の脚色は、原作を更にスケールアップさせながら、物語の説得力、つまり、"高橋一生の演じる岸辺露伴"が主役でなければいけない理由を確かにしていて素晴らしかった。漫画である原作を補いながら、映画でしかできないことをやる…脚本の小林靖子さんの鮮やかな手腕が光る。

また、とにかく高橋一生さんと渡辺一貴監督との一連の共作(露伴ドラマシリーズは勿論、『おんな城主直虎』『雪国 -SNOW COUNTRY-』)を観てきたファンには堪らないような、最高傑作が出来上がっていると感じた。
一生さんのファンとしては"俺たちの見たい高橋一生 "が全部詰まっていたし、それはご本人の岸辺露伴への愛情だけでなく、渡辺監督が如何に高橋一生という役者をよく見ておられて、理解しているからこそだと感じられた。あの終盤の流れを見て、震えないファンは居ないと思う。

ドラマシリーズの怪奇さはそのままに、少しエモーショナルで、血の通った成分多めの露伴先生が新鮮だった。漫画のためなら何をも厭わないストイックな漫画家である彼もまた、人間であることが感じられただけで、観る価値があると思う。