ダブリンの夕暮れ

風の谷のナウシカのダブリンの夕暮れのネタバレレビュー・内容・結末

風の谷のナウシカ(1984年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

◆宮崎駿の「いまをどう生き抜くか」論
瘴気と蟲に怯えながら、錆とセラミック片に覆われた荒廃した世界での暮らしを営む人類とその戦いを描く。
宮崎駿は、常に「共生」をテーマに物語を描いている。それは、最近流行りの「多様性の受容」という意味ではなく、「現状の受容(=悪意との共生)」だと思う。だからこそ宮崎駿は、作品の冒頭と結末で環境を変化させず、その状況は良くも悪くもならない。自分の力ではどうすることもできない現状を受け入れ(諦めのほうが正しいかもしれない)、その中で生き抜こうともがき続ける。「落ち込むこともあるけれど、私、この町が好きです」というキキの手紙は、まさにこの思想を表したものだと思う。「悪意に満ちたこの世界も生きるに値する」という思想は宮崎駿作品に一貫しているが、なかでも今作と『君たちはどう生きるか』に特に色濃く現れているように感じる。
ジブリを何度も観たくなるのは、面白いことは当然ながら、物語を通じて宮崎駿の「共生」の思想にふれることで、登場人物の内面的な成長を自分のものとして実感できるからなんだろうな。カウリスマキの『敗者三部作』に通ずるところがあると思う。そりゃ好きに決まってる。
ディ◯ニーだったら、蟲を完全悪として描き、主人公は瘴気の無毒化を成し遂げてしまうんだろう。そんな桃源郷や夢物語も素敵なんだけどね。