菩薩

家族の菩薩のレビュー・感想・評価

家族(1970年製作の映画)
3.4
思えば寅さんはこんな旅をいつも一人でしているのであって、そりゃ柴又が、気心知れた肉親が恋しくなるのも無理はない。寅さんは寒ければ暖かい南へ、暑ければ涼しい北へと向かうのだろうけど、この一家は桜前線に追いかけられる様に、北へ北へと旅をしていく。北風よりも冷たい現実に晒され、大金叩いて手にしたのは不幸なのかとばかりに皆疲れ果て、幼子は見知らぬ土地でその短い生涯を閉じる。それでももう後戻りは出来ない、電車に揺られ、固い座席に苦労し、やっと辿り着いた北の大地に見る物は…ただ、何も無い、ただ広すぎるだけの平原。新たな生活を始めねばならぬ矢先、祖父も静かに人生の幕を下ろす。「北の国から」でのかつては豆大尽と謳われながら、最後は頭もボケ雪の中に「豆〜豆〜」とひたすら育たぬそれを撒き続ける悲劇的な死に比べれば安かな死に顔であるが、かつては炭鉱夫としてならした彼の人生は、はたして幸せだったのであろうか。6月、真っ白な冬を乗り越え、緑芽吹く希望の季節、遂に念願の子牛を手にし、民子の腹にも新たな命が宿る。大地の下に眠る二人の聖人に誓う幸せ、冬はもう、開けたのだ。
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