とうじ

バニシング・ポイント 4Kデジタルリマスター版のとうじのレビュー・感想・評価

5.0
一回映画館で見てところどころ寝てしまったので、再見。
アメリカでは、食べたら落ち着く料理のことを「コンフォートフード」というのだが、その映画版がこれだと思う。
全体的にほっと一息つけるような映画で、つーっと白いダッジチャレンジャーが砂漠の道路の真ん中を滑っていく爽快感、圧迫感のない不思議な旅行記のような脚本、ところどころ現実と虚構の狭間をゆったりと進む場面の数々などが、70sの音楽と混ぜ合わせられる至高の100分間が、本作である。そのこごち良さに、前見た時は風邪の時に見るのがちょうどいい雰囲気映画だなーなどと思っていたのだが、2回目で少し考えが変わった。
本作は、カウンターカルチャーの雰囲気がかなり濃厚なのにも関わらず、開けっぴろげにその精神性を搾取する娯楽映画にはなっていない。逆に、そのカルチャーを体現するヒーローとして主人公を見せることで、そのカルチャーの危うさを批判しているように感じた。いわば、カウンターカルチャーは中途半端で、実態を捉えにくいものなのである。そして、それが失敗することで、初めてその実態が確実なものに変貌する。「カウンターカルチャーは夢であり、現実世界にひきずりおろしてもだめなのだ」ということを、本作は逆説的に、コワルスキーの最後の姿(そこに絶対にいるはずなのに目視はできない)で表している。主人公は最後に具体的な生身の人間から抽象的な概念へと変貌するのだが、それこそ主人公が(カウンターカルチャーの権化として)あるべき姿だったのだと感じさせられる。
しかし、本作はその主人公の最後の瞬間に至る直前から映画が始まる。そのループの形状を持つ時系列の捩れで監督は何を表現したかったのか?それは、「カウンターカルチャーは夢であり、現実とは相容れないからこそ、永遠なものである」ということなのだと思う。ここまで時代精神を内包し、的確な批判をしていながら、嫌な感じは全くせず、風邪の時に見てもちょうどいい、ほっと一息つけるチルな映画となっている本作は、名作以外の何物でもないだろう。
とうじ

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