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世界の終わりからのkoukiのレビュー・感想・評価

世界の終わりから(2023年製作の映画)
4.7
紀里谷監督は20年かけて、生涯渾身の一作を撮りきった。この哀しい世界でフィクション作品がずっとやるべきだったことをやりきった。

映画(虚の世界)で人がどんなに苦しもうと、誰かが命果てようと、我々の世界(実の世界)には何も変わりがない。一方、我々の中では幾許かの感情の変化は起きる。一度それを経験した観客はそれ以上を作り手に求める。だから作り手たちは少しでも感動や興奮を共有してもらうため、要求に応えるように皆キャラクタたちへの殺しがエスカレーションし続けた。フィクションのキャラクタに対してであろうが、それは自分の生み出したいわば分身のようで、一番の「理解者」である自身が死を与えるのは感情的にそう簡単な行為ではない。それでも、伝えたいことが観客に伝わるならば、と。

しかし、世界は美しい星にはならなかった。みんなのため、と言えば平気で誰かを苦しめることができる我々には、たかが映画では好転しない。ただ、消費コンテンツであるままの状況に作り手は絶望するしかない。

その末、紀里谷監督は最も不幸とも言える世界滅亡を描いた。フィクションであろうが、全てを殺すことはとてつもない苦しみを伴う。しかし、最大の絶望を共有することがこの世界を変える最後のチャンスであろう。哀れな我々が少しでも目が覚めることを願って、監督は最後の仕事をやりきった。


最後に少し話は反れるが、紀里谷監督は映画のお金の集め方を従来の製作委員会を立てる手法から、スポンサーとして企業からお金をいただく手法に変えらしい。どこまで意味があったのかはわかっていないが、映画製作のあり方は常に変化するものなので、出来れば他の製作陣も追随してほしいな。
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