MasaichiYaguchi

コット、はじまりの夏のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
4.1
1980年代初頭のアイルランドを舞台に、9歳の少女が過ごす特別な夏休みを描く本作は、家族といても孤独だった少女が居場所を見つけて生き生きとしていくさまを、情感豊かに切り取っていく。
1981年のアイルランドの田舎町、大家族の中でひとり静かに暮らす寡黙な少女コットは、夏休みを親戚夫婦キンセラ家の緑豊かな農場で過ごすことになる。
初めてのうちは慣れない生活に戸惑うコットだったが、ショーンとアイリンの夫婦の愛情をたっぷりと受け、一つ一つの生活を丁寧に過ごす中で、これまで経験したことのなかった生きる喜びを実感していく。
アイルランドの作家クレア・キーガンの小説「Foster」を原作に、これまでドキュメンタリー作品を中心に子どもの視点や家族の絆を描いてきたコルム・バレードが長編劇映画初監督・脚本を手がけた本作の一番の魅力は、何と言っても、デビュー作でありながら主人公コットを圧倒的な透明感と存在感で繊細に演じたキャサリン・クリンチにある。
英題「The Quiet Girl」が表すように、コットは多くを語らず、余り意思表示しない。
その代わり、劇中では何度も疾走シーンが出てくる。
よもやこの疾走が、最後にこんなにも我々の心を鷲掴みするとは…
何とも言えない温かな余韻が広がります。