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タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3DリマスターのSTAYGOLDぴあ映画生活のレビュー・感想・評価

4.8
OCEAN
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恐ろしく古風。
そして美すぎる愛のかたち。

ローズが蒼い泪をタイタニックの眠る海に返した後に見た夢に関しては何を語っても無意味だ。訳知り顔で、声高に理屈を語るひとを見ると、とても哀しくなってしまう。劇中の人間の姿を思い出してしまうから。

家柄を気にする婦人。見栄ばかりの婚約者。他人を押しのけ我先に逃げ出す高級市民たち。いのちの価値は、みな同じだと言うのに。

映画から受け取るメッセージなど、ひとそれぞれ。確かな答えなど存在しない。知っているのは、その世界を産みおとした人間だけだ。

ただ、それだけの想いを背負って生きていけたのなら。最後にあれほどきらびやかで甘やかな舞台で再会できたなら。ローズの生涯は悔いのない人生だったといえるだろう。

共に黄昏、添い遂げるだけが愛の形ではない。狂おしいくらいに、お互いを想うからこそ別れを選ぶ運命もある。誰かの未来のために。

本当にこの作品はDVDでも数え切れないくらい観た。ジャックとローズの出逢いの姿を描くために。劇中で起こる様々な出来事を、危機を伝えるために。そして、今思い出しても泣けてくる最後まで甲板で演奏していた楽団の四人を、最後の最後まで演奏をして海に消えた四人を映像に残すために。

初めてこの作品に新宿プラザで出逢ったときは、まさかそういう日が来るとは思わなかった。

とても好きな作品だった。だから凄まじいプレッシャーも感じた。歓喜とともに。ほぼ完成版の映像が仕上がったとき、最終版元確認で小狡いユダヤ人のバイヤーが、土壇場で実写の画を40分しか使わせないと難癖つけてくる。

3時間強、全編使い放題が条件だ。今更演出は代えられない。

一緒に編集をして創り上げた馴染みの映画職人たちと悔し涙を流しながら演出し直した。CGは何とでもなる。創り直したタイタニックも、海も全てあるから。けれど、本編の登場人物はそうは行かない。編集スタッフは、自分らの作品をレ×プされたと激怒していたけれど、途中で投げ出すことなどできない。

この作品を愛しているひとに届ける。それが任務であり一番たいせつだ。なによりも私自身がこの映画を愛していたから。守りたい、そう願って走り続けた。

紆余曲折を経たが、市場的にもそれなりの評価をもらい小型車5万台相当をリリースし沢山の人に届いた。

でも、結局この船もジャックや蒼い宝石同様、相当数が海に還っていった。雪が舞う寒い2011年の東北の海へと。きっとそれがこの作品の宿命なのだろう。

ローズの生きてきた道には、いつも笑顔のジャックがそばにいた。好きなだけ自由に飛んでいいんだよ、と。本当の愛は、それだけで映画になる。まちがいなく、なる。キャメロンは、確信的にそれをやる。彼が描く世界の根底には、かならず愛がある。それは理屈で語るものでなく、ただ愛で、その胸で感じる夢のかけら。

このコロナショックを超えたあとのキャメロンは、また新しい何かを伝えてくれるはずだ。そう信じて待ちたい。「いつかまた」が起こることを信じて。

夢の豪華客船では必ず何かが起こる。昔も今も現実が虚構を超えてくる。でもジェームズ・キャメロンには、ぜひ「現実を超える夢」を魅せて続けてほしい。

宝探しの彼には、きっとたやすいはずだ。感動に銀幕が滲む、その瞬間を信じて創りかけの新作を楽しみに待ちたいと思う。

そうして…。

月日を経ても感動は変わらない。
あの日、新宿プラザがあった場所。今はTOHOシネマズ新宿に変わった場所で銀幕を観つめながらそう思った。

時代を超えても残る何か。
いつだって答えは 遥か彼方にある
それが映画なのだから。

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