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パスト ライブス/再会のbaobabunokiのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
5.0
生涯をかけて、ある映画を見た時、『この映画は自分の物語だ。』と気づき、物語に入り込む映画に出会えるという事は映画という娯楽の中で感じる最大の幸福であり、財産だと思う。

この映画はその一本だった。

十数年前、私は日本に移住した。そして、私には幼なじみがいた。今も生きていて、“いる”のだが、彼女とは数年前から連絡をとらなくなってしまい、私の人生の登場人物ではなくなってしまったので、二人の姿に自分を重ねざるをえなかった。
お互いに“幼なじみ”という特別な何かで繋がっていると思っていたが、そうではなかった。

私は彼女にとって5歳にして隣からいなくなった“ノラ”であり、もう忘れて消えかけている思い出の中で身近だった人をただ思い出し追いかけていた“ヘソン”でもあると気づいた。

失いつつあるモノ、人生をかけて会いたいと思っていた人がいたこと、誰かを恋しく思い出す瞬間があること、その全てがこの映画には「イニョン(縁)」として描かれている。
失った事で得られる物は増えるかもしれないが、人間にはその穴を完全に埋められるようになる程実は器用ではないと改めてノラと共に気付かされるラストのシーン。

言葉にしたい韓国語だけの会話、言葉にしない眼差しの狭間で揺れ動く気持ちが素晴らしかった。
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