たく

妖怪の孫のたくのレビュー・感想・評価

妖怪の孫(2023年製作の映画)
3.6
日本の憲政史上最長の首相在任記録を持つ安倍晋三の実像に迫るドキュメンタリーで、ほぼ既出の情報の再構成なので期待したほどの新鮮味はなかった。「パンケーキを毒味する」の内山雄人監督が、一人の政治家を多面的に捉えるという前作同様の手法で日本の政治の特殊性と闇の深さを浮き彫りにしてて、控えめにはなってるもののアニメーションパートが相変わらず鬱陶しい。

本作は安倍晋三の人と成りや政策を、生い立ち、アベノミクスの失敗、メディアの掌握から政治の変貌、そして悲願の憲法改正と多面的に見せて行く構成で、その根っこに「昭和の妖怪」と呼ばれた祖父の岸信介の存在が不気味に浮かび上がってくる。アベノミクスの失敗は岸田首相が最近の会見で(うっかり?)認めたことなんだけど、それでも日本は増税と軍備増強にひた走るという恐ろしい状況になってる。

メディア掌握の戦略が民主党政権成立時からすでに始まってたというのは驚いた。何年か前に国が吉本興業の事業に税金を投入してたという記事が流れた時に、日本の政治は死んだんだなと絶望的な気持ちになったのを思い出す。政治とメディアの癒着によって政治は「やってる感」を演出し、政権批判はできなくなり、ますます投票率が下がって長期政権維持を助けるという悪循環。安倍政権がスキャンダルから逃れるため、2017年に北朝鮮の脅威を理由に解散総選挙に走ったのは、まさに現在繰り返されてる北朝鮮のミサイル発射を連想する。

そして通らないわけに行かない旧統一教会と政治の癒着については意外とあっさりで、鈴木エイト氏の言うように政治家はそれほど大事と捉えてないんだろうね。終盤の憲法改正が本作のクライマックスで、最終的な結論は「主戦場」と同じく、政治のエリート層が大日本帝国憲法の復活を望んでるというおぞましいもの。憲法が国家権力を抑制するために存在するという法曹界の常識を覆し、憲法を国民を統制する手段にしようとしてるんだね。今の日本の政治にスポットを当てると、どうしてもディストピアになっちゃうのがこの国の現実。
たく

たく