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ビヨンド・ユートピア 脱北のKUBOのレビュー・感想・評価

4.5
すごいドキュメンタリーだ。

中国〜ベトナム〜ラオス〜タイと、12.000キロにも及ぶ脱北者たちの記録。

先日見たコメディ『宝くじの不時着』の中で韓国と北朝鮮の間には「地雷地帯」があるとされていたが、その地雷地帯のために脱北を試みる者は逆に中国側からしか北朝鮮から出ることはできないのだそうだ。

本作は脱北を試みたある一家が中国国内の山の中から、韓国の脱北を支援する組織「地下鉄道」のキム牧師に助けを求めてきたところから始まる。

よくこんなリアルな映像が撮れたな、と驚嘆するが、山やジャングルを抜ける間のシーンは、脱北ブローカーがスマホを使って撮ったものだと言う。

そのロ一家から様々な北朝鮮のリアルな実態が語られるが、

水も灯もない。

便所は全て汲取便所で、そこから糞尿を自ら運んで国に納める(具体的には農家などに持っていく)。糞尿の量が少ないと罰せられるので、糞尿まで隣家から盗むこともある。

北朝鮮の家では金正恩と金正日の写真を飾ることが義務付けられているが、その写真に少しでもチリや埃が付いていたら厳罰が科される。

北朝鮮では聖書の所持は禁止。キリスト教徒は銃殺。それは金正日の神格化のために、聖書の記述をパクって金正日の伝説としているため。北朝鮮の人民が聖書を読んでしまったら、それがバレてしまうから。

「アメリカ人はみんな人殺しだ」と教えられているが、それって戦時中の日本の「鬼畜米英」ってのと同じだな。

脱北しようと中国に渡っても、中国で女性は女郎屋に売られてしまったり、無理矢理農村部の男の妻にされるなどの人身売買も行われている。

一番恐ろしいのが、脱北を試みて捕まった者は、公開処刑されるが、その時に使われる銃は普通のライフルのようなものではなく、飛行機を撃ち落とす高射砲だと言うのだ。逃げようとしたらこうなると恐怖を植え付けるためだが、遺体は跡形もない肉片になってしまうだろう。恐ろしすぎる。

そんな中で、脱北を助けたキム牧師の奥さんも脱北者なのだが、その馴れ初めがおもしろい。小太りなキム牧師を金正恩みたいだから奥さんが一目惚れして結婚したというのだ。一般的な北朝鮮の男はみんなガリガリだからと。

作品は、このロ一家の脱北の様子の他に、先に脱北して息子の脱北を待つ母親や、以前に脱北して現在韓国内で活動している人たちのインタビューも交えて構成されている。

コロナ禍で、北朝鮮は中国との国境に鉄条網を張り巡らし、更に脱北は困難を極める状況だそうだが、キム牧師は中国が脱北者を難民と認定してくれれば、と言っているが、それも難しいことだろう。

脱北を果たしたロ一家のおばあさんが「金正恩をどう思いますか?」と聞かれて「偉大なる将軍様」と答えている時に、娘が「お母さん、もう本当のことを言ってもいいのよ」と声をかける様子が印象的だった。

おばあさんは嘘を言っているわけではなく、そこまでマインドコントロールが根強いということにもショックを受けた。
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