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コヴェナント/約束の救出のRのネタバレレビュー・内容・結末

コヴェナント/約束の救出(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

映画館で友人2人と。

2024年のイギリス/スペインの作品。

監督は「アラジン」のガイ・リッチー。

あらすじ

2018年、アフガニスタン。タリバンの武器や爆弾の隠し場所を探す部隊を率いる米軍の
ジョン・キンリー曹長(ジェイク・ギレンホール「ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界」)はアフガン人通訳のアーメッド(ダール・サリム「残り火」)を雇う。部隊は爆発物製工場を突き止めるが、そこにタリバンの司令官によって大量の兵を送り込まれ、キンリーは瀕死の重傷を負ってしまう。しかし、隠れていたアーメッドによって、100キロもの距離を運び出され、キンリーは命からがら米軍の偵察隊によって救出される。7週間後、回復したキンリーだったが、アーメッドがタリバンに狙われ行方不明だということを知り、救出を決意、自力でアフガニスタンに戻るのだが…。

先日の「犯罪都市3」のレビューでも書いたように、今年始まって以来の空前の話題作目白押しウィーク!!次に観るのはガイ・リッチー最新作にして、事前評価もめちゃくちゃ高い今作をチョイス!!

結論から言うと、なるほど!めちゃくちゃ良かったです!!

お話はあらすじの通り、「戦争もの」ではあるんだけど、監督があのガイ・リッチー!!

ガイ・リッチーと言えば、出世作である「ロック、ストック〜」をはじめ「スナッチ」「シャーロック・ホームズ」シリーズ、そして実写「アラジン」など、まぁ「アラジン」は未見だからなんとも言えんが、どっちかというと英国色強めなシャレ乙な映画を撮る気鋭というイメージなんだけど、そんなガイ・リッチーが戦争ものでしかも、実話ベースを話を聞く撮るとはなーって感じなんだけど、観てみるとなるほど、全体的にクリアでバキッとした絵作り然り、劇中で出てくる専門用語が出てくるとクラシックなフォントで正式名称がパッと出てきたり、なんといっても後半の「あの回想」シーンなど絵的におっ!と思わせるシーンが多い一筋縄ではいかない戦争作品となっている。

で、お話的には明確に「前半」と「後半」に分けて主人公ジョン・キンリーと通訳であるアーメッドその立場が前後でガラッと変わる構成となっている。

ジョン率いる部隊は要はタリバンの武器工場を探して破壊する役目を担っているんだけど、先々の任務で先任の通訳が仲間一名と共に爆発で死亡、任務も空振りばかりでなかなか結果が出ずにヤキモキしているところにやってきたのがアーメッドってわけ。

アーメッドを演じるのはダール・サリムという役者さん。大体日本で観れる彼の出演作の半数がNetflixという感じで俺自身も全然知らない役者さんなんだけど、見た目からしてなんか通訳の枠に収まらないくらいスキンヘッド、髭面、顔濃ゆめのイカついおじさん。ただ顔立ち自体はどこか柔和にも見えるというか、瞳も寂しげでどこか優しさもある感じが良い。ただ、前の任務では軍に反抗的でもあって、ジョンの部隊でも工場の情報を得るため、ジョンが渋っているところを独断で情報筋にお金を上乗せしてしまったり、味方であっても怪しいと感じたら馬乗りになってボコすなど、序盤は何を考えてるのか分かりづらい信用ならない通訳の男として描かれる。

で、そんなアーメッドにジョンも最初は懐疑的というか、距離をとってる感じ。

そんな関係性がよく表れているのが序盤の対面のシーン。軍の上司的な人からアーメッドを紹介され、走り寄ってこちらにくるアーメッドにジョンは軍のジープの座席に乗ったまま話しかけるんだけど、ショットとしてはカメラの左側で直立で話すアーメッドに対して、ジョンはジープのサイドミラー越しで映っていて(しかも、どこか横柄にも見える)、「協力関係」ではあるのにどこか「相容れなさ」を観客に感じさせる構図で演出しているのが印象深い。

で、そんな2人を含めた部隊、遂に敵の爆弾工場のアジトを突き止めることに成功するんだけど、そこでタリバンの司令官によって大量の兵を送り込まれてしまう。

まず、このシークエンスがすごい。敵の言動から何かを隠していることを察知して、ジョン、アーメッド、あと何人かの兵士のグループが工場の上層部を探索、その間にも下層ではジープの上部でマシンガンを構える新兵の乗ったジープ、工場員を地面に拘束して銃器を構える兵士、中層にはスナイパーで辺りを探る兵士を位置させる万全の布陣をファーのアングルを効果的に使い、観客側に位置関係をわからせた後、部隊の動きを察知したタリバンの司令官によって、工場前方からひっきりなしに兵が送り込まれ、あれだけ布陣を組んで臨戦態勢で臨んでいた兵士たちがわらわらと迫ってくるタリバン兵に1人、また1人と凶弾に撃たれ、倒れていく。

俺自身、事前にあらすじを読んでしまっていたので、こうなることは予期していたものの、バックでかかる悲劇的な劇伴もあって、最後に残ったのはジョンとアーメッドたった2人という顛末を辿り、壊滅的状況下になってしまったこの流れは観ていて非常に辛かった。

そして、そんな命からがら逃げおおせた2人もジョンは泣く気力さえ失った口を覆い、その背後でどうジョンに声をかけるべきか何度も言葉を飲み込んで結局声をかけずじまいで逡巡するアーメッドのシーンも状況の悲惨さを物語る。

残された2人は怒り心頭のタリバンの包囲網に徐々に追いやられつつ(というか今作のタリバン、後半のシーンも含めて追っての勢いが早すぎる)、なんとか山中の廃墟まで辿り着き、束の間の休息をとるんだけど、そんな休息も束の間の翌朝、辺りを伺っていたジョンが敵の銃弾に撃たれ、足と手に重傷を負い、瀕死状態に陥ってしまう。

で、1人残されたアーメッド、なんとそんな瀕死のジョンを手製の担架に載せて運ぶ。その距離なんと100キロ…。

しかも、行手は果てしなく厳しい道のり。撃たれた場所も険しい山中、加えて道が舗装された道路はタリバンが血眼になって車で探索しているから使えないという極めて困難な状況を余儀なくされてしまう。

そっから意識を失ったジョンを運ぶアーメッドたった1人の戦いが始まるんだけど、険しい山道を担架を引っ張って歩き、灼熱の炎で煙がもうもうと立ち昇る道を咳き込みながら進み、寒さで急速に体力を失いつつあるジョンを毛布でなんとか暖めつつも、凍えながら夜が過ぎるのを待ち、前方の道路からジープに乗ってやってくるタリバンを息を殺しながら屈んでやり過ごしたりともう常に命を失う一歩手前の緊迫感が手に汗握る…。

特にタリバン嫌いのキャラバン?から譲り受けた荷車に乗せて、道中1番険しい山道をゆくシーンはただでさえ勾配の急すぎる坂道を登らなくてはいけない中、アーメッド自身も照りつける日射と疲労で体力も限界寸前。そこに負傷してろくに歩けないジョンを載せた荷車を押して運ばなければならないので…もうなんつーか状況的には助け出すのは無理だよな、これは。

それでも、荷車の重さに怒りの叫びを上げ、途方に暮れて悲しみに打ち震えてもなお、ただただ助け出す、その一心で荷車を押し続けるアーメッド、その執念たるやすごい。

そして、遂に軍の基地がある地域も見え始め、ようやく辿り着くことができると露店で水を購入し、一息ついてると、なんと後方から運悪くタリバンのジープが…マジかよ。

なんとかやり過ごそうとするんだけど、タリバンの1人が荷車に乗せたジョンの存在に気付いたその時、もはやヤケクソとばかりに牙を剥くアーメッド!!

荷車のジョンに気づいた兵士を即座に撃った後、もみくちゃになりながらも死に物狂いで最後の敵を倒して精魂尽き果てているところに、ようやく、本当にようやく米軍が到着…やっとか…。

斯くして、ジョンは部隊壊滅という憂き目に遭いながらも、アーメッドによって助けられて無事生還することができた。

ここまでで「前半」パートは終了、観る前はてっきりこの前半パートはテンポ良く描いて後半のパートを描くと思ったら、逆に前半パートを濃厚に尺を使って描いていて、それだけで大胆な構成にも思えるんだけど、救出されて7週間後、ジョン救出でアフガニスタンではすっかり英雄となったアーメッドは、怒り狂ったタリバンに完全マークされてしまい、行方知らず。ということで今度は助け出されたジョンが思い返すのも苦痛な地獄を経験したはずのアフガニスタンに舞い戻り、アーメッドを助け出そうとする後半パートがスタートしていくとまたガラッとテイストが変わってくる。

そもそもが土台無理な話ではあって、ただでさえ状況は激化の一途を辿る危険なアフガニスタン、情報を得るのも極めて困難であり、はじめはアーメッドが今どこにいるのか探ろうにも部署をたらい回しにされ、誰も手を差し伸べてくれないような状態。

そんな日々を30日以上送り、ジョンも電話口で関係部署に怒鳴り散らかす始末、どうすることもできない状況下で夜な夜な思い出すは瀕死の重体を負いながらも懸命にジョンを助け出そうとするアーメッドの姿。

このモンタージュシーンが間違いなく今作屈指の名シーン。瀕死のジョンによる一人称視点でそれまでの地獄のような道中を回想していくんだけど、重傷で横たわっている=逆さまの視点から時に激しく、時にエモーショナルに美しささえ感じるような目まぐるしさでアーメッドという1人の「漢」がジョンを乗せてひたすら歩き、介抱し、死に物狂いで戦い、救う様をこれでもかと映し出す、まさにガイ・リッチーという監督の真骨頂と新境地が合わせ技で織りなす印象的なシーンとなっている。

そんな回想を通して、「恩義」を感じない人間はいない!と上司であるヴォークス大佐(ジョニー・リー・ミラー「マーズ」)に静かに、ただ恐ろしささえ感じさせる「決意」を持って手を貸すように指示するジョンの姿がまたカッコいい✨

そして、遂に奥さん(エミリー・ビーチャム「クルエラ」)や子どもたちの理解も得て、アフガニスタン潜入。そこで、髭面でわかりづらかったけど、なんと「ザ ・ボーイズ」のホームランダーこと、アントニー・スター(「世界最速のインディアン」)演じる地元の協力者パーカーの協力を渋々取り付けたは良いものの、なんと単身アーメッド救出に向かうことに。

アーメッドの弟の計らいで、輸送トラックで潜入するも、途中関門のタリバン兵と遭遇、バレそうになり撃ち殺してしまうトラブルもありつつ、遂にアーメッドと再会できる。

またこのシーンが良い!状況は差し迫っているのにも関わらず、地元になんとか溶け込んで車の整備を一生懸命やってるアーメッドの横から素知らぬ顔でやってきて「ここは犬が多いな」とまた序盤とは違った意味合いで気付かせ、「助けに来た」と嬉しそうに伝えるジョンの姿がまたちょっとしたシーンなんだけど、すげぇグッとくるんだよなぁ!!

ようやくアーメッドと再会できたジョンはアーメッドの家族を連れて、すぐさまトラックでパーカーとの合流地点であるダムを目指すんだけど、撃ち殺されたタリバン兵士の姿を後方で目撃していた別の兵士によって、情報が司令官に伝わり、それが憎きジョンとアーメッドだということがバレてしまい、すぐに追ってがやってくる!!

ものすごい勢いで後方から迫ってくるタリバンたちをトラックの後部から銃器で応戦しつつ、迎えるクライマックス、ダムシーン!!

広大な景色のダムの上部で後方から死に物狂いで今か今かと追ってくるタリバン兵にジョン、アーメッド、そしてなぜかとばっちりの運転手笑が多勢に無勢の状況下の中、銃器で応戦するも、押し寄せる敵の軍勢は収まる勢いもなく、弾丸も底をついてしまう。

遂にここまでか…とジョンとアーメッドが観念した…その時、上空からパーカーによって要請された「死の天使」アーク・エンジェルが一斉放射で銃撃を浴びせ、あれだけ大挙していたタリバン兵士が一網打尽されていく様は圧巻の一言。

そして、遂に戦いも終焉を迎え、助け出された2人は印象的に同じ画角で違う間柄で映し出されたカメラショットから同じ画角で同じ空間で一緒に映し出されたことでようやく「侍従」の関係から「戦友」となることも伝わるラストも良かった。

今も現在進行形で続いているアフガニスタン問題。兵士だけでなく、アーメッドのような名もない通訳も何百人と死亡し、収束の目処はつかない状況下が続く中、たった1つの「レヴェナント(絆であり、誓いであり、約束)」を胸にお互いを助け出すために闘うジョンとアーメッド2人の男の勇姿に静かに心打たれる作品だった。

いやぁ、ガイ・リッチーこんな映画も撮れるんですな、脱帽です。
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