Genichiro

夜明けのすべてのGenichiroのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5
PMSを扱った映画って今まで存在したっけ?とてつもない高密度、俳優の演技・演出・編集と全ての解像度の高さに驚いて、仕上がりの地味さに更に驚く。本当に地味な作品だが語ることに終始した映画、というわけではない。今作では同一シーン内のカットは極力アクションで繋ぐというルールが設定されている。これによって物語がスリリングに立ち上がってくる(面接のシーンや山添と恋人の対面など、どうしても避けられない場面以外ではアクションを伴わない切り返しは行われない)。PMSを患った藤沢美紗、パニック障害を患った山添孝俊の相互補完的な交流が物語の要となっている。これがほんとに面白い。彼女/彼の容態がどのようなものか描写された後、二人の交流によってそれがコミカルに転化していく様は笑いながらも心の底から感動してしまった。二人の役割が相互補完的であるのは物語上の必然というだけでなく、ケア問題ひいては人間関係そのものへの一つの回答であろう(最後まで恋愛関係として描かれないのも重要)。今作で再認識したけど三宅唱監督のユーモアセンスがほんとに良い。面白い場面はいくつもあるんだけど、シリアスな場面の最中に撮影クルーの子供たちの方が気が回るみたいな描写で笑いそうになってしまう。只々シネフィルみたいな人には撮れないものだな、そういう意味でも青山真治を想起した。青山真治作品からの繋がりを感じる光石研や斎藤陽一郎。そしてカッコ良すぎる渋川清彦、カッコ良すぎるって。こんなにも素晴らしい点がいくつもある、だからこそ2人の関係性が確定したあとはどうしても停滞しているように見えてしまう…いやこんなことは言いたくないけどあと10分短ければ…そしていろんな人が言及してる音楽使いすぎの問題…とはいえ、登場人物たちがプラネタリウムで一堂に会して終わるという物語はほんとに美しい。そしてラストクレジットの長回し、これを見て確信した。今作は青山真治の最高傑作が『EUREKA』ではなく『サッドヴァケイション』だと信じてやまない人向け映画です。(藤沢が宇宙に関する映画として最初に言及するのが『スペースカウボーイ』で笑った。初っ端に出てくる映画じゃないだろ。あの瞬間だけ三宅唱の自我が見える。榮倉奈々が加藤泰を引用するくらいあり得ないよ(『東京公園』))

UDcastというアプリで副音声を聞きながら見れるということを知って2回目鑑賞。以下、コメンタリー聞きながら気になったところのメモ。

「思いつく(心理)って画面に映らない」という監督の言葉が忘れ難い(藤沢が山添の家に行こうと思う場面を見ながら)。印象的な散髪シーン、なんと夜の撮影‼️照明によって昼の場面に見えている。お守りを買った後、山添宅に向かい、ポストにお守りを入れる。そのあとポストに拝んでいる場面で監督が「ポストに拝むことある??」って言ってて笑った、確かに。お守りの数にHi’specがツッコんでた話もウケた。山添の彼女と藤沢が出会う場面、「いくらでもギスギスできるけど」そうしなかった/ならなかったのが良かったという監督談。フリスビーの場面、曇っていたのが日が差して、また雲に遮られた。山添の心理を見事に描写していて奇跡。山添が冷静に喋る時のコンサルっぽさ、確かに。男女の友情って〜と話すときとかいかにもそんな感じ。上白石萌音が指摘した、懐中電灯→街の明かりの繋ぎ。山添が初めて栗田化学のジャケットを羽織り自転車を漕ぐ。その速度。まだ坂道を登ることはできないので自転車を一度降りて、手で押しながら進んでいく。ほんとに細かい描写の積み重ね。終盤、あの坂道から駅のジャンクションの繋ぎは夕暮れ→朝方の日の光。エンドロールの場面、階段の下のタンポポは美術部が作成した(秋の撮影だったので)。いやー美術の仕事ってほんとに重要だな。そして実は人数が一人多い…?三宅監督ってそういう仕掛け入れるんだと驚く。
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