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夜明けのすべてのあのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
冒頭雨のバス停で寝転ぶ藤沢の前にバスがスーっと入ってきて、何事もないように乗客が乗り降りするシーンからもう既に当たり感が滲み出ていました。個人的に今のところ劇場で見た中(新作)では年内ベスト。

PMSやパニック障害、弟の自殺、姉の過労死といった分かりやすいワードが出てくる割には、それぞれが大きな展開も解決も見せず、ただ当然の弱さを持った人間の繊細な時間が流れている。これが素晴らしかったです。

地震から停電、そして歩道橋からの夜空へ向かう流れや、会社に馴染んできた山添が社長の弟へ手を合わせた夜から、社長の弟の意思を受け継いだ移動式プラネタリウムの流れ、そして屋上の夕陽。こうした淡い時間の移り変わりの感覚が本当に冴え渡っていました。

当事者のことなど本質的には理解できないことを意識しながらも、同じ人間として少なからず理解できる苦しみを思い出し、感覚を共有しようとする姿勢が、前のめりに社会的な映画とは一線を画していて、斜め横低めの落ち着いたアングルがただただ被写体への優しい寄り添いを見せる映画でした。

いつの間にか当然のように持っている自転車、ドアノブに何気なくかかっているエコバッグが山添と藤沢の織りなす絶妙な関係性を見せているのも素敵でしたが、なんと言っても街の小さな中小企業の解像度の高さには驚きです。
物語とは関係ないところでも、欄間の向こうでおっさん二人がああでもないこうでもないと話す光景の既視感が作品への没入感を少なからず高めていただろうと思います。エンディングの会社前での「コンビニ行きますけど何か欲しいものあります?」の時には、もう現実を見ているようにしか思えませんでした。

あと山添役の方はジャニーズの方らしいんですが、この方がめちゃくちゃよかったです。「いやこれ誰にでも話してるわけじゃないんで」みたいな何気ないセリフに、パニック障害に罹患するまでは弱さというものに無頓着な若者だったという感じが多分に出ていてものすごくリアリティがありました。

全国規模の映画でこういうのが普通に流れることにまだ救いがある気がします。そして濱口竜介とかより断然率先してこっちを見るべきな気がしなくもない...

あとケイコより全然面白かった
あ