おりひめ

アナログのおりひめのネタバレレビュー・内容・結末

アナログ(2023年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

物語 10点
配役 10点
演出 9点
映像 10点
音楽 10点
---合計49点---

良かった!!二宮和也さん演じる何処か冴えないけれど日々を丁寧に暮らす40代男性と、波留さん演じる上品でいて内に秘密を抱えるが故に陰のある女性の、純愛ストーリーが温かくて心に沁みた。

連絡先を交換せず、週に一度、木曜日だけの逢瀬を重ねる悟(二宮和也さん)とみゆき(波留さん)。そんな「アナログ」な恋愛模様は現代では少々特殊な状況かもしれないが、丁寧に関係性を深める描写は温かく心地良い。途中気になった箇所や細かな描写の意味が、みゆき(=奈緒美)の日記で明かされる場面は、王道な演出だが彼女のその時々の心情に胸を打たれたし、悟の涙に貰い泣きしそうになった。終始、悟の視点で語られるとはいえ、こんなにも彼の心情に感情移入し、前半はニヤニヤしつつ、後半は涙を堪えて見守ることになると鑑賞前には思わなかった。
本筋から外れた部分でも、悟と彼の母のやり取り、悟と友人達の気安くも互いを大切にする関係性、悟の仕事への拘り、香津美の奈緒美への想い等、本筋以外の描き方の塩梅が上手い。ニヤニヤする場面やクスッとする場面の中にも胸にスッと沁みる言葉が自然に散りばめられていて、恋愛部分以外も温かさに溢れていた。
正直、奈緒美が本当の意味では目を覚さまさない結末を危惧していたので、初回鑑賞時は感動より安堵が勝ってしまったラストシーンも、2回目を観た時は素直に感動出来た。

その他、本作は予告編の切り取り方から想像したストーリーと、実際のシーンが全く違っていることが複数あって、良い意味で期待を裏切られて面白かった。
青系統の色とくすんだ落ち着いた色味に徹底した映像は、派手さは無いがわざとらしくない日常の美しさで、作品によく合っている。ギターとヴァイオリンを基調とした音楽も心地良い。(※楽曲担当の内澤さんのインタビューによると、悟がメインの時はギター、みゆきがメインの時はヴァイオリンが主旋律になっているそう。そして二人のシーンでは二つの楽器の音色がともにメインになり、終盤はそこにピアノが加わる。この辺りもよく考えられていて、音楽に着目して作品を観るとまた別の発見があった。)歌入りの曲が一切無く、エンドロールはインスパイアソングのインストルメンタルバージョンが優しく流れるのが、締め方として温かく、優しく、美しい。

唯一のマイナスは、前半多用された映像をぶつぶつ途切れさせる演出と、後半特に目立った暗転の多さ。もう少し場面転換が上手ければ文句なしの50点満点だったのが惜しいが、傑作には違いない。心がささくれ立った時に観たい作品だ。


余談
初回鑑賞日の夜中、余韻に浸っていた時に思い至ったのだが、鑑賞した日(10月7日(土))が作中でみゆき(奈緒美)が事故に遭った日からちょうど2年だ。
作中の10月7日は木曜日であり、それから2年経過していることから、事故に遭ったのは2021年、2人が再会したのは2023年だと分かる。
そして再会後の経過時間の描写とラストシーンの二人の服装から、この冬に彼女が目覚めることが予想出来る。
勿論本作は完全なるフィクションではあるが、何処かの海辺で、二人が遂に想いを通わせる日がもう直ぐ来るのだと思うと、私までとても幸せな気持ちになった。


※2023年10月7日と29日の2回鑑賞。Blu-ray買うけど、あと一回劇場で観たかった!
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