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オクス駅お化けの雑記猫のレビュー・感想・評価

オクス駅お化け(2022年製作の映画)
2.6
 ウェブライターのナヨンは自身の仕事上のミスを挽回するために、地下鉄オクス駅で起こった人身事故の取材を始める。その中で人身事故の現場で線路上に謎の子供がいたことを突き止める。ナヨンはその正体を探るが、そこにはオクス駅に隠された恐るべき事実があった。


 1998年に公開されたホラー映画に『リング』というものがある。この作品は当時大ヒット、現在でもJホラーの筆頭格であり、今や作中に登場する貞子は一つのカルチャーアイコンと化している。さて翻って本作。まず登場する怪異が『リング』っぽく、背景設定も『リング』っぽく、作中の重要ギミックも『リング』っぽく、話運びもどことなく『リング』っぽい。つまり、作品全体を通して、非常にこのうえなく『リング』っぽいのである。さすがに貞子や呪いのビデオこそ出てこないものの、『リング』のリメイクですと言われたら、そのまま納得してしまいそうなくらい『リング』なのだ。というわけで脚本については「『リング』みたいな話です」という評価しかしようがない。


 ではホラー作品としてはどうか。正直怖いかと言われると、そこまででもないのだが、これには2つ理由がある。まず1点目。本作ではジャンプスケアと呼ばれる表現が多用されている。恐ろしい怪異が突然画面いっぱいに映りドキッとさせられるアレである。本作ではこの表現が非常に多い。というより、怖いシーンは全部これと言ってもいい。そのため、びっくりすることはあっても怖いかと言われると少し微妙なところなのだ。加えて、本作の怪異は幼い少年少女の姿をしているのだが、これがもう一つの難点。先程述べたようにジャンプスケア的に少年少女の怪異が登場するシーンは演出と特殊メイクのおかげでドキッとできるのだが、シーンが長回しになればなるほど、怪異の全身がしっかり映し出されれば出されるほど、そこはかとなく、怖さよりも子役の頑張りが画面に滲み出てきてしまう。そのため、恐怖よりも微笑ましさというか、ハロウィンの子供たちを見るようなホッコリ感が勝ってしまうのである。これはこれで味があって良いのだが、ホラー映画のそれとは明らかに異なるものであろう。


 といった具合に正直いまいちな印象の本作なのだが、しかし、こと最後の数分の突き抜け具合に関しては100点満点を与えたいところ。結局のところ、オチもだいたい『リング』なのだが、ある残酷な事実に対して、『リング』が絶望し途方に暮れる物語だとすると、本作はその事実を受け入れたうえで破壊願望を剥き出しにする物語となっている。この最後の最後での背徳的なまでの突き抜けがこのうえなく痛快なのだ。ここまでグチグチと不満点を書いていたものの、ドラマの組み立てや映像のルック自体はそつなく良い作品であるうえ、ヒロインを演じるキム・ボラの芋っぽく冴えない雰囲気が実に巧みであるため、このラスト数分でこれらの要素がパズルが完成するようにバシッとはまり、とてつもない最大瞬間風速を生まれているのである。個人的にはこの破滅的なラストをあと5分膨らませて、より阿鼻叫喚なクライマックスに仕上げてくれれば、もっと面白かっただろうなと感じる。
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