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碁盤斬りのせっのレビュー・感想・評価

碁盤斬り(2024年製作の映画)
4.3

濡れ衣を着せられて藩を追われた「正々堂々」が座右の銘の浪人の男が、商人の男と出会い囲碁を通じて友情を育みながら、慎ましやかに暮らしていたが、妻の死の真相を知ったことで復讐を決意する話。

話の展開や映像の見せ方やキャラの印象や感情の揺れ、色んな意味で静と動の振り幅がすごい映画だった。

まず、最初30分ぐらいは國村隼演じる商人と主人公柳田の友情、半ばブロマンスのような穏やかな様子が描かれる。予告で復讐ものと思って見に来たのに何を見ているんだと思いつつ、段々この2人のシーンもっと見たいぞと思ってきた矢先に柳田の過去が明かされると同時に現代の方でも重大な事件が動く。映像も、往年の時代劇(恐らくこんなだったんだろう)を思わせる、いかつさと渋さを醸し出す。緩急が凄くて、こちらも背筋を正しそうになる。

さらに、柳田の印象も碁盤の四隅を移動するように変わっていく。穏やかな清廉潔白な良い浪人から、復讐に燃える一人の男から、正しすぎるが故に頑固になり悪人の顔を覗かせる武士。回想シーンでは柳田に突然襲いかかる幼稚な男だと思っていた復讐相手が、現在パートで出てくるとどこまでも自分の得しか考えないけれど人間らしい魅力的な男に見え、柳田が清廉潔白がんじがらめ頭カタカタ野郎にしか見えなくなる。

前半で商人の絆を産むきっかけとなった「正々堂々」のスローガンも忽ち恐怖の言葉へと変わる。世の中は、意外と白と黒と間のグレーを行き来して回っている。頭の硬い武士が本当の意味で武士を辞め、浪人になるまでの話だった。

あとこの映画、柳田の復讐への道中の描き方がthe日本画で好きだった。あの日本画に描かれていた橋を走っている男はもしかしたら復讐の道中だったかもと想像が膨らむ。
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