まや

almost peopleのまやのネタバレレビュー・内容・結末

almost people(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

喜怒哀楽の感情、それぞれが欠落した4人兄弟を、それぞれ異なる監督が描く。

感情への向き合い方や、人との繋がり、言葉の不可能性、対話の可能性、現実社会が抱える問題等、作風の違う作品4つが観られて面白かった。

・長男のはなし:『Voice Recorder』
横浜聡子監督

これが4つの中で1番好きだった。喜びの感情のわからない長男。脚本を書くライターの仕事をしているが、喜びの感情がないから、街を歩いて喜んでいる人々の生の声をボイスレコダーに撮っていく。ある日、自分の書いた脚本で、喜びの台詞が説明的すぎるから直してほしいと言われる。その喜びの台詞を言う俳優と一緒に喜びの感情(言葉)を探しにいく。その中で、人って喜びがある時に喜んでいると口に出して言わないことに気づく。

感情と言葉は密接な関係にあって、どっちから先に生まれるかはわからない。どちらの影響も受け合っている。だけど言葉はいくらでも嘘がつけるから真実性がまるでないことが描かれていく。(でも言葉でしか人とは繋がれないこの矛盾)このテーマは私が大好きなテーマなので凄く丁寧にわかりやすく展開されていって面白かった。(主演の嶺さんがすごく自然でよかった。平井亜門くんも出ていて嬉しかった)

・長女のはなし:『Humanoid』
石井岳龍監督

怒りが欠落した長女の話で、怒りの感情がテーマ。これはごめんなさい。本当に受け入れられなかったし、全く乗り切れなかった。日本の抱える社会問題、ブラック企業の実態、SNSの暴力性、女性の生きづらさ、環境問題などなどすごく盛り込んでいたけど、全て上辺で深みがまるでないなと。よく言われている表面的な言葉、それっぽい難しい言葉の羅列でしかなくて、本当にその問題に直面している人からしたら、そんな軽く扱わないで欲しいと思うのではと思った(少なくとも私はそう思ってしまって普通につまらなかった。何がしたいんだろうと思った)

簡単に世界は変えられるとかのセリフも説得力無さすぎるし、社会を変えるという取り巻きの男たちが突如、長女に告白するのも意味不明だった(いるかその告白と思った。取ってつけたみたいだった)大好きな渋川さんと塩塚モエカさんが出ているのに勿体無いなと思った。最後も結局、ぶつ切れで終わっていて、広げた風呂敷も回収出来ずだし、不穏な空気感なのに、全然怖くないし、全て中途半端ですごく長く感じた。

・次男のはなし:​『Still Ok』
加藤拓⼈監督

楽しい感情が欠落した次男の話。これは2番目に好きだった。とても丁寧な関係の描写で最後少し泣いた。同棲中の彼女にプロポーズしたが、彼女がはこの次男が自分といて本当に楽しいのかわからなくてモヤモヤしている。次男は幼稚園の頃から自分が人とは違うことで、自分がモンスターではないのかと思っていて、そういう自分の核みたいな部分を相手に曝け出すのってすごく怖いけど聞いてくれた時の安心感というか強い味方感というかそれを強く感じた。

また、こちらも人との対話の大事さと分かり合えなさがテーマになっているのも良い。対話は分かり合えないといことをわかりあうためににするのだと。いくら言葉を交わしても寄り添うことしかできないというセリフが印象に残っている。

最後、ピザを食べに行って、次男がぎこちない笑顔を作り、外に出るシーン。この彼女といれば、この先楽しいという感情を本当の意味で理解できそうなシーンだなと思った。後、最後、楽しそうに笑顔で踊る人たちがいる部屋の中から出て、それを外から彼女と2人で眺めるシーン。良かった。

普通に楽しめなくても同じ方向を向いてくれて、そばにいてくれる人がいること、これからも2人でいることが見てとれて良い終わり方だった。(彼女役の人がほんと可愛いなと思った)すごく丁寧に2人の関係が描かれいて、もっとみたかった。

・次女のはなし:『Honeymoon Baby』
守屋⽂雄監督

哀しい感情のない次女。自分だけ兄弟の中で異母であって、学校も辞めたいと、民宿を手伝いながら海、山のあるところで1人生活している。その学校の教師がきちんと退学の手続きをするように、彼女のもとに訪れる。すごくゆったりと自然豊かな舞台設定。大人のビールをシークエンスに、彼女の抱える背景を少しだけ描いていく。最後この教師と結婚するのが唐突すぎたのが少し受け入れられなかったのと、ゆったりしすぎて1番何のテーマもなかったように思う。でも主演の方と、その街の雰囲気があるので何となく良かったかなとは思えた。

こういう作品は知らないけど気になる監督さんや、俳優さんとの出会いになるので観ていて新たな発見に繋がるなと思う。だからお話しはそこまで重要視していないが、長男の話と次男の話はかなり好きだった。
まや

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