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ドミノの雑記猫のレビュー・感想・評価

ドミノ(2023年製作の映画)
4.1
 刑事ダニー・ロークは銀行強盗を仄めかす匿名の通報を受け、現場へ急行する。すると、催眠術によって瞬時に他人をコントロールできる謎の男・デルレーンに遭遇する。デルレーンの裏をかき、彼が狙っていた貸金庫を先回りして調べたロークは、そこに自身の行方不明の娘の写真を見つける。デルレーンに逃げられたロークは、彼が娘の行方を知っていると確信する。ロークは、デルレーンと同様に催眠術を操ることのできる占い師のダイアナ・クルーズの協力を仰ぎながら、彼の行方を探り始める。


 催眠術によって瞬時に他人をマインドコントロールしたり、他人に幻覚を見せたりすることができる能力者「ヒプノティック」たちの戦いを描いた本作。こういう設定である以上、「実は物語のスタートの時点からこんな幻覚を見せられていました」であるとか、「実は最初からこの人はいませんでした」といった仕掛けが用意されているだろうなというのはだいたい想像できるところなのだが、本作が素晴らしいのは、こうやって身構えて観ている人の予想すら2周ぐらい上回るギミックがしっかり用意されている点である。特に物語全体の種明かしが始まり、作品全体のカラーがガラッと変わる中盤の展開は実に鮮やかで、ここから作品のギアが明らかに一段上がる。しかも本作がすごいのは、この種明かしで終わりではなく、ここで一旦物語が宙ぶらりんになり、ストーリーがどこに向かっていくのか不明瞭になったところで、さらに隙を突くようにより予想外の方向へさらに一段ギアを上げて、物語が猛スピードでドライブしていく点にある。作品全体のギミックに触れずに説明すると全くの意味不明なのであるが、しかし、実際にこうなのだから仕方がない。とにかく、中盤から一切失速することなく、物語の熱量が加速度的に上がっていくこの感覚は、なかなか類を見ないものでとてつもない高揚感を味わうことが出来る。自由度が高く、なんでもありが出来る設定にも関わらず、一定の納得感があり、それでいてハッタリの効いた本作の脚本は実に高レベルなものと言えるだろう。


 本作は約1時間半という比較的タイトな尺の作品なのだが、これがまた作品の満足度にプラスに働いている。前述の通り、本作は催眠術の達人「ヒプノティック」たちの戦いであるため、全体として本作は「そんなこともあろうかと実は前もってこんな仕掛けをしておいたのだ」といった類の後出しじゃんけんの連続で構成されている。本作の良い点は、この後出しジャンケンの手を出すスピードが実にハイテンポで、新しい展開に次々と物語が移り変わっていくため、脚本のズルさをあまり感じないところにある。この内容を2時間尺や2時間半尺でやってしまうと、「あそこであれだけ長々やってきてたことのオチがこんなもんかい」という不満も出てこようものなのだが、本作ではあれこれと考える間もなく、次の展開へ次の展開へと話が進んでいき、全く不満がたまらない。話運びの上手さも相まって、ストレスや違和感のない実に痛快な娯楽作品に仕上がっていると言えるだろう。
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