メモ魔

【推しの子】Mother and Childrenのメモ魔のレビュー・感想・評価

4.2
嘘を嘘でベタ塗りする主人公が、自分のキャンバスに愛の色をもぎ取った話。

そして、その子らが愛の色を滲ませていく話。

そのプロローグ。

簡単にいくとこんなところか。
1話アニメ放送だったけど確か映画で先行上映してたはず。90分で見事プロローグと共にキーパーソンを降板させた構成作家の方に拍手。

シーンごとに感想

[いつか、嘘が本当になることを願って。
頑張って、全力で嘘をついてた。
私にとって嘘は愛。
君たちの事を愛せていたかは分からないけど、愛したいと思ってアイの歌を歌ってた。
いつかそれが、本当になることを願って。]
まずこのシーン。感動で涙が止まらない。自分にとって愛情がなんなのか。その感情が何にあたるのか分からなかったアイ。その愛って感情に少しでも近づけるように、また自分が納得できる愛を探すために。本気で嘘の[あいしてる]を叫び続けたアイに脱帽。
みんなが適当に使ってる[愛してる]の意味を、自分が納得するまで譲らなかった姿勢が最高にかっこいい。
人には人それぞれの[愛してる]があって、適当だろうとなんだろうと、その愛してるが間違いであることはない。それでも自分の中で[愛してる]を納得できるまで研ぎ続けたアイには、自分が求めていた[愛してる]の感情に巡り合って欲しいと思った。
こういう自分の持ってる感情を強く持てる人本当に尊敬する。

[今だって君のこと愛したいって思ってる。
嘘だろ。そうやって見逃してもらおうと、、、
ようすけ君。だよね?あれ違った?
ごめん私、人の名前覚えるの苦手なんだ。
お土産でくれた星の砂。嬉しかったな。今もリビングに、飾ってあるんだよ。]
人の名前を覚えるのが苦手と散々謳っていたアイが。才能があると思った人しか覚えられないと言っていたアイが。最後の最後まで綺麗な嘘でアイドルを貫いた姿に感動。
自分は人の名前を覚えるのが苦手だけど、あなたの名前は覚えています。どこまでが嘘かは分からないけど、ファン一人一人に真摯に向き合い、また一人一人を全力で愛そうと努力したことがこのシーンに現れていて良い。またそれだけに、誰よりもファンを大切に、努力の嘘で魅了したアイがファンに殺されてしまうのが悲しくてならん。愛情を知るために嘘で人を魅了した税がここで身に返ってくるのが残酷なシーンだった。
ファンと生きるアイドル。そんな偶像すら嘘で現実にしてしまったアイは本物の究極のアイドルだった。

[ルビーももしかしたらこの先、アイドルになるのかもと思ってて。親子共演みたいなさ、楽しそうだよね。アクアは役者さん?2人は、どんな大人になるのかな。ランドセル姿、みたいな。ルビーのママ、若いなとか言われたい。]
もう本当に涙止まらん。母親が自分の死を覚悟した時、子供を怖がらせないようにいつもよりゆっくりと、それでもずっと心に残るような言葉を紡ぐシーンはどの作品でも心を抉ってくる。
ルビーはこの言葉を受けて人生の方向を定めることになる。母親の言葉は偉大だ。

[これは言わなきゃ。
ルビー、アクア。
[愛してる]
やっと言えた。ごめんね。言うのこんなに遅くなって。
よかった。この言葉は絶対。
[嘘じゃない]]
このシーンはこの作品を語る上で外せない。
嘘で固めてでも、いつかたどり着けると信じた[愛してる]の感情にアイが初めて触れ、そしてそれを最後にしたシーン。
愛してるの意味を人よりずっと深く知っているからこそ、自分の感情がそれに値しないことを深く知ってしまうアイ。それ故に自分の子供にすら愛してるを伝えられなかった。そのアイが恐る恐る言葉にした愛してる。その愛してるが自分のなかで本物で本当の感情になれたことが嬉しそうで、そしてそれが最後なのを悲しそうに微笑むシーンがもう見てられなかった。こんな悲しいことってないでしょ?

愛を親から受けずに、そして知らずに育った人間が、自分で愛を創出する難しさをこの作品は教えてくれる。
そして創出された愛は、誰よりもその本当の意味を込めているからこそ輝きを大きく増すことをまた教えてくれる。

総評
愛情、愛してるって言葉を考えさせられる作品は難しい。誰にとっても愛情って感情は少しずつずれていて、、そしてズレているからこそ人それぞれの色がお互いを尊敬し合えるからだ。そんなモヤモヤとした掴めない感情を、少しでも多くの人に嘘と一緒に届けられたら。そんな作者の愛の色が見えた。自分にも、誰とも違う色の[愛してる]がいつか本物として心に添えられるように強く生きていきたいと思った。

90分アニメとしてはかなりの完成度。
序盤は少し弱いがそれを持って余りある帰結。
4.2点
愛を題材にした作品で大ヒットするものが最近多くて、本物を求めてる人が多いんだな〜と思った。

ヴァイオレットは手紙から愛を知るために。
アイは嘘から愛を知るために。
愛という形の無い雲のような感情を、様々な手段で綺麗に丁寧にすくい上げる作者の技量にもう感無量です。
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