デニロ

バカ塗りの娘のデニロのネタバレレビュー・内容・結末

バカ塗りの娘(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

津軽塗をバカ塗リというのは、バカっ丁寧に幾度も塗り重ねるのでそういうんです、と酒向芳に説明されて松金よね子と篠井英介の夫婦は、バカが塗っているのかと思いましたよ、安心しました、と返す。この台詞書いた人、笑ってもらおうとでも思ったんだろうか。馬鹿じゃなかろうか。

津軽塗職人の小林薫。妻片岡礼子とはすでに離婚していて彼女は別の家庭を持っている。その理由は定かではない。長男坂東龍汰は津軽塗みたいな先のない職人なんかの後は継がない、と家を出て美容師になっている。長男は手先が器用なので期待していたんだけど。長女堀田真由は何事にもぼんやりで、子どもの頃何か習い事をしたいと言ってもお前には無理、で今の今までもそれで片付けられてしまっている。実際に自己肯定力も乏しくて、兄からもお前もっと自分を出せよと、励まされている。街中の花屋の店員宮田俊哉の爽やかな姿を遠目に見ては、いやいやと頭から追い払おうとしている23歳の女子。そんな一家の長なんだけど、彼も津軽塗の職人としてはままならぬようで、今は老人ホームで暮らす名人級の父親坂本長利の作品と比較されてそれがなかなかに辛いのです。応募した展覧会の落選通知に、かつて父親が作った作品を手にしてどこが違うのだと煩悶するのでした。

そんなこんなが続いていくのですが、津軽塗の製作過程が繰り込まれているのを観ていると、昨今の流れから『青いカフタンの仕立て屋』のようなクィア作品になるんじゃないかと、そんな風にこの先を思ってしまうのだが、それほどには波紋を感じない凡庸な流れ。と思っていたら唐突に坂東龍汰が宮田俊哉を家に連れてきてお付き合いしています。えっ、とたじろぐ堀田真由とは別の思いでわたしもたじろぎます。が、小林薫は同性愛を受け入れているのか何なのか反応が薄く、うちの跡継ぎだから云々。兄とパートナーはロンドンで結婚し、生活するために旅立ちます。仕事のためというよりも、この日本ではマイノリティとしか生きられないことが苦しい。

物語りはあちらこちらに飛び交い、堀田真由は父親の仕事を手伝っているうちに何を思ったか勤務していたスーパーマーケットを辞め、小林薫にわたし津軽塗やりたいと言い始める。集中するタイプなんだろうか津軽塗に引き込まれて行き、観ているわたしには、なんでそーなるの、という思いしか湧かないのですが、妙なことを始める。少し前廃校になった小学校に忍び込みその音楽室でピアノを見つける。このピアノを塗りたい、とでも思ったらしく役所に談判に行くと、使ってないんだからいいんでない、文化の貢献にもなるんでない、といとも簡単に許可が出る。あ、だから劇伴はポロンポロンという雨だれピアノなんですね。

嗚呼、兄は分かっていたのだろう。妹が津軽塗をしたがっていたのを。自分を出せとはそういうことなんだろう。

津軽塗で彩られたピアノはメディアに取り上げられて評判になり、遂には作品と作者がオランダに行くことになる。え、いい話なんだろうけれど、都度つどに葛藤というものを端折っているのでのめりこめない。いったいこの作品は何を描きたいのだ。

民話に伝えられている、いろんな色合いを重ねすぎて真っ黒になってしまったカラスのような作品。
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