（通常上映）
吉田恵輔作品はコメディとヒリヒリ感のバランスを作品ごとに調整している印象があり、本作は過去作でいう『空白』に近いバランス。また、随所に出てくる何かをしている後ろで不快感を催す何かが起こっているという演出に、監督特有の面白さと嫌さが両立した奇妙さを覚えた。
しかし『空白』では不明瞭な真実を登場人物の一部は知っていて観客はわからないというタイプの地獄だったが、本作は美羽の行方という不明瞭な事実は登場人物全員がわからない（少なくともそう描かれている）、それが故の地獄という点で異なっている。その地獄っぷりは石原さとみの演技に刻印されており、冒頭からずっと憔悴しきっているため撮影時のメンタルが心配になるレベルで、2ちゃんの誹謗中傷を見てしまうのは、ライブに行った自分を誰かに罰してほしいからなのかと推察した。また夫を演じる青木崇高は、感情的になりかけると自分を律しようとするのが好印象を与える役で、だからこそラストはこっちまで危なかった。
総括として、娘を見つけることを諦めた訳ではないものの、少なくともいなくなったという過酷な現実を受け入れる心のゆとりを持てるようになるまでの物語だと思った。
