プー

ミッシングのプーのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.6
吉田恵輔はもう10年以上日本映画界の希望の光な訳だが、前々作『空白』以降は一分の隙もない大傑作しか作らないちょっと異常な状態に突入してしまっている。
空白以降の作品に通底する姿勢としては
・映画の細部に至るまで絶対に「簡単に解釈させる」余地を作らない
・この現実世界に存在する(可能性のある)かすかな希望を説得力を持って描くために映画のほとんどの時間を絶望を描くことに費やす
・エンタメとして消費するための設定や展開は作らないが、絶対最終的には「面白い」ものに仕上げることを目指す
といったあたりか。
言うは易しでこれらを本当に100%実行できたらそりゃ名作になるわけだが、3作とも実行できてしまっている。

この作品が描いているものをつらつら書いていくのは野暮な気もするので省略するが、話の作りやメッセージ性は空白とかなり似ているためそこと比較すると、メディアの描き方については明確にアップデートが入った。
あちらは唯一メディアに関してだけは悪意の増幅装置たる悪役として記号的に描いていたが(そこが主眼ではなかったのでそれが問題だとは思わない)、本作はそのリベンジとばかりにメディア内部のグラデーションも丹念に描いている。あの新人の子な……ゴシップの話の時の方が明らかに楽しそうなんだよな……

また、本作ではスーパーや街中や警察署など至る所で加害的なコミュニケーションが見られるが、ブログで受けた誹謗中傷を弟へのLINEに転嫁してしまう沙織里によって加害の連鎖構造が描かれるのは本当に見事な脚本だった。
メッセージの通知音一つ一つが心をナイフで刺しているかのようで弟が最悪の選択をしてしまうのではと本当に怖かった。

今年の全ての映画賞の主演女優賞は石原さとみでいいです。もう彼女をこれまでと同じように見るのは無理だ。
プー

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