おりひめ

ミッシングのおりひめのネタバレレビュー・内容・結末

ミッシング(2024年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

物語 10点
配役 10点
演出 9点
映像 8点
音楽 8点
---合計45点---

「幼い少女の失踪」から3ヶ月後と2年後を舞台に、少女の両親、少女を最後に目撃した叔父、そしてテレビ局の報道記者のそれぞれを描く物語。失踪した6歳の少女は遂に最後まで見つかることはなく、重苦しい雰囲気で終始する。既に事件は起こってしまっているが為に、話に大きな起伏もなく、悪い言い方をすれば冗長であり、地味だ。しかし故にこそ、役者の演技が光る。石原さとみさん演じる母親・沙織里の悲嘆と、徐々に心を蝕まれ狂っていく様子、そして、最後、心に闇を抱えつつも光差す日常を生きる姿が強烈な印象を放ち、その気迫に圧倒された。
また、深い悲しみや辛さを胸に抑え込み、時に葛藤し、人知れず涙を流しつつも、ぶつかっても只管妻に寄り添う父親・豊役の青木崇高さんの表現力も素晴らしい。
「二人目の少女」が発見された時、素直に喜んだ沙織里と、彼女の母親に声を掛けられて咽び泣いた豊の姿に、ただ娘の無事を願う彼らの親心が如実に表れていて、きっとこれが、残された家族の現実なのだろうと思わされた。

彼らに対して、叔父の圭吾と記者・砂田に対する描き方も面白い。
圭吾の描き方に、やはり彼が失踪に関与しているのではないかと疑わせるが、それこそが監督の狙いなのだと思った。限られた情報、怪しいと思わせるような経歴に踊らされ、人は簡単に犯人を決めつける。失踪当日の隠し事があったのは事実だが、基本、ただ不器用なだけの彼が言葉を発しないことを良いことに、彼に対して憶測であらぬことを書き立てようとする報道の姿勢は恐ろしくもあり、リアルだった。
対して砂田は報道側の人間で、彼は憶測で記事を出すことを良しとせず、ただ事実を伝えたいと真摯な取材を行う。誠実な彼だが、彼が伝えた情報は歪められるし、視聴者に面白いように捉えられていく。決して報道だけが悪いのではない。憶測で沙織里を誹謗中傷し、訴訟を起こされたネットユーザーと同じく、聞いた事実を「面白がって」歪曲し、勝手な妄想で攻撃する視聴者こそが悪いのだ。
途中、圭吾が砂田に向かって吐いた言葉や、砂田が先輩デスクに向かって言った言葉が敢えて聞き取れない描写があった。
これこそが、耳障りの良い、或いは都合の良い情報だけを曲解する我々消費者への皮肉ではないか。
SNS上の誹謗中傷により刑事訴訟に発展する問題が昨今頻発しているが、事件が他人の娯楽として消費される、その恐ろしい実態を突き付けられた。

失踪事件発生後の当事者を、ドキュメンタリーのような切り口で描いた本作は、後味が良いとは決して言えない。だが、あくまでも誇張なく淡々と描いたことで、類似事件が日々発生する中、他人事として片付けている私の心に深い余韻を残した。


余談
冒頭から、とある失踪事件をモデルにしているのではないかと頭に浮かぶ。浮かびつつも、本作の内容と当該事件は状況が色々と異なるし、むしろ似ている部分は少ない。何より決定的に違うのは、当該事件が当初から事故の可能性があり、結果的にも事故であったのに対して、本作の美羽は高確率で事件に巻き込まれてしまったことであろう。であるのに、どうしても重ねてしまうのは、やはり母親の狂気を感じる程の必死さと、インターネット上の誹謗中傷が思い出されたからだと推測する。前者は子を持つ親なら仕方の無い状態だし、後者はまさに現代が抱える闇だ。見ず知らずの子供の失踪に対して、たとえ何もできなくとも、せめて無事を願う優しさを持ち続けたいと改めて思った。
おりひめ

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