北アイルランド紛争の舞台となったベルファスト、アードイン地区。哲学を授業に取り入れた男子小学校の生徒たちとケヴィン校長のドキュメンタリー。
分断と暴力の近年史を生きた大人に育てられる自我も朧げな少年たちに、自制と思いやりを説き導く思考の時間。
校長のみならず教職員全てが子供たちに対し、対等な人間として振る舞う姿が素晴らしく、誠実であろうと応える子供たちもまた凛々しい。
一見、綺麗ごとにも思え、子供には響きそうにもない哲学や道徳の類いが、そうした信頼関係の中で着実に浸透していく様子が窺える。
同時期に観た「ウーマン・トーキング」でも忍耐をもって初等教育を行うことが人格形成を成すことを示していて、ケヴィン校長がベン・ウィショー演じるオーガストと重なった。
正直、ドキュメンタリーとしては凡庸な印象だが、それだけ余計な演出をせず手付かずな姿を見せてもらえたと思っている。
そこに写るのは答えのないことを学ぼうとする小さな哲学者たちだった。
