yoma

ナショナル・シアター・ライブ「善き人」のyomaのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

テナおじを浴びるために県外遠征して鑑賞。

「善き人」というタイトルがあまりにも強烈な皮肉になっている作品。

テナおじ演じるジョン・ハルダー教授は妻子と障がいのある母を世話しながら生活する善き人(あくまで自分ではそう思っている)だが、学生を愛人にするわ母を安楽死させようと考えるわで正直全く善人ではない。
自分の文章を評価されていい気になって、新たな愛に出会い見たくないものからさっさと逃げて、そんな弱みにまんまとつけ込まれてあれよあれよという間にナチスに染まっていくジョン。
その様子を、ただ淡々と、そして平然と演じていくテナおじがとても怖くてリアルで凄まじかった、、、
ゲーテの男と呼ばれて喜び若い女といちゃつくジョンが「ファウスト」の悪魔に魂を売るストーリーと重なりこれも強烈な皮肉。
自己の正当化の仕方が本当に怖い。洗脳ってこういうことなんだ。もし自分が同じ立場になった時ジョンと違って強くいられるだろうか。多分無理なんだろうな、だからホロコーストは実際に起こったんだ。それを考えてまた怖くなった。

「自分のことが1番大事で、人のことは考えていられない」と平気で友人を見捨てたり、水晶の夜のシーンで「こうなったのはユダヤ人のせいだ」とユダヤ人の友人の前で言える精神マジでぶっ壊れてる。
真っ暗な中ものすごい爆音で人の悲鳴と爆発音とガラスの割れる音が鳴り響く演出がすごく怖くて泣きそうになったのに、その様子をただひたすらに傍観しているだけなのが怖すぎた。もう人々が殺される様子を見ても何も感じなくなっている、怖すぎた、、、

親衛隊の軍服に着替えるシーン、生着替えでびびる
軍服姿テナおじ細かったな、、、
「あまり似合ってなくてそれに救われた」というレビューを拝見して確かに、と思った。

歌うテナおじ愉快すぎてかわいかったのが唯一の救い。会場の笑い声につられた(笑)

ラスト、ずっと変わらなかった舞台セットが開いて、生バンドが現れる。
頭の中で鳴ってるんじゃなくて、本当に鳴ってたんだ。ずっと見ないふりをし続けてきたジョンに現実を見せつける、この終わり方本当にゾワッとした。


演出面においても素晴らしかった。
メインキャストがテナおじ含め3人だけ。でも1人で何役もこなしていて、ライトがパッと切り替わるたびに役とシーンがガラッと変わる。衣装や髪型はそのままなのに、男性も女性も演じられていて、その切り替わりが本当にすごかった。
舞台セットもずっと変わらないのに役者の演技で見えないはずの背景が見えてきてすごい。
けっこうひっきりなしに喋ってて、役がコロコロ変わるし、しかも合間合間でこちら側に語りかけてくる。なんて忙しいんだ!すごすぎる。

ナチスドイツや戦争をテーマにした作品が怖すぎて基本得意でないのでこの点です。
yoma

yoma