こし

ナショナル・シアター・ライブ「善き人」のこしのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

身につまされる話だった。

主人公が最後まで小市民のメンタルであり続けることによって、感情の流れが身近に感じられて、それだけにもう引き返せない閉塞感や不安がダイレクトに伝わる。
認知症の母、不安定な妻、子どもたち…めちゃめちゃしんどい暮らしのなかで出会う若く美しい自分に気のある女や、自身の著作を称賛し、新たな生活を与えてくれるかもしれないナチスに流されていく主人公を誰が責められるだろう。
ユダヤ人の友人が求めてきた助けをぬるりと振り払う主人公も然り。
自分がこの立場でも同じことをしてしまうだろうとしか思えなくて、ものすごい痛さだった。

三人の役者の力量が素晴らしく、特に女性の役者の演じ分けが見事だった。
性別や年齢を軽々と行き来していて、どのキャラクターも面白かったけど、一番凄みを感じたのは認知症の母役。
耳の遠い老人の声の出し方、シワの寄った眉間、不安そうな目付き、すべてが完璧に認知症の老人。介護生活のしんどさがフラッシュバックしてゾッとした。

ユダヤ人の友人役だった男性の役者も良い。
ラストシーンで主人公と並んだときのなんともいえなく絶妙な表情と、優しく悲しい目が印象的。

テナントはグッドオーメンズとリチャード二世しか知らないけど、マイベスト·テナントだったかもしれない。
暗くなりそうな物語だったのに、彼のシリアスと軽やかさのさじ加減がとても良く、笑うところは笑ってしまった。
歌とダンスも良い。
そしてどの衣装もすごく似合っていた。悔しいけどナチス軍服のコート姿が最高にカッコいい。
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