Ryan

キングダム エクソダス〈脱出〉のRyanのレビュー・感想・評価

3.7
虚栄心



ストーリー
コペンハーゲンの巨大病院「キングダム」にやって来た夢遊病者のカレンは、そこで起きた数々の不可解な事件の調査に乗り出す。一方、新たに赴任してきた医師のヘルマー・ジュニアは、亡き父の秘密を探り始める。


主演 ボディル・ヨルゲンセン
監督 ラース・フォン・トリアー


本国デンマークにて視聴率50%を叩き出した伝説の"怪物級"ホラー。
25年ぶりの第三弾にして堂々の最終章。


まず、鑑賞後に感じたのは「やりたかった事ではない」だろう。
鬼才ラースフォントリアーの初期に作られたこのシリーズは、野心的で宗教的でエンドロールにラース本人が登場して1話ごとに解説までするという徹底した"自己愛"ぶりを披露していたが、今作からは違う。
自分が過去に行ったその行為自体に"嫌悪"している。
ラース流に言うならば"マスターベーション"。

ラースがやりたい様にできなかった理由は様々ある。
メインキャストは25年の間に5人も亡くなり、ラースは名声と引き換えに"病"を手に入れ、四苦八苦してなんとか物語を完結させなければならないと言う"完璧主義"だけのために制作されたと言っても過言ではない。


30代の時と60代の時で思想が変わり、もはや見る影もなく"恐れている"姿しか見えなかった。
この物語のラースが真に恐れているのは自分に迫り来る"老い"という名の"死"であり、近年のラース作品は"死"自体が魅力的かつユーモア的に描かれているのはそれが原因だろう。
自分がいくら作品で死後を魅力的に描いても己の想像で作った死後の世界の方が魅力的すぎるのだ。
死んだら"無"が、どうしてもら納得できないのだ。
なんという"神をも恐れぬ罪"を背負った男なのだろう。それに気づき、救いがないことも悟ったからこそのラストなのだろうと確信している。
大前提に「ラースは死ぬことを誰よりも恐れている」を念頭におかないと物語を理解することは難しいだろう。


今作は虚栄心からハリウッド俳優やハリウッド進出しているスターが多数参戦している。
スウェーデンの"英雄"スカルスガルド家の参戦やラース組"常連"ウィレムデフォー、ウドキア、マッツミケルセンの兄弟ラースミケルセン等、これでもかと言わんばかりの虚栄心。

悲しいだろうな。
祖国では天才と持て囃されたラースフォントリアーは7年間もカンヌを干され(タヴー発言により)その間に作った今作は「死ぬことが怖いと駄々を捏ねている」
作品を世に送り出しても、死んだら意味はないのかもしれない。

病的なまでに囚われた男の物語を見る覚悟があれば鑑賞をオススメする。
なかなかお目にかかれない、世界でも珍しい作品なのは間違いないのである。
Ryan

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