ひかる

花腐しのひかるのレビュー・感想・評価

花腐し(2023年製作の映画)
4.3
公開記念舞台挨拶付きで観た。

この雰囲気の映画、大好きだなと改めて実感した。
じっとりしていて、観終わった後の余韻がとてつもない。

栩谷のあの底から溢れてくるような喪失感で、画面が一気に映画になる。息苦しさすら感じるレベルだ。しかしその後出てくる伊関が酸素をくれる。だから、物語に引き込まれる。キャッチーな存在というか、安心。物凄くありがたかった。
栩谷1人でも、伊関1人でも、2人の良さは分からなかったなと思う。
それから2人を繋ぐ祥子があまりにキラキラしていて、眩しかった。こう考えると、祥子がこの物語の主役なのかもしれない。

この映画は、過去に付き合った女性(祥子)の話をしている男性2人(栩谷、伊関)をひたすら観る話なのだが、過去の描写が全てカラーで現在が白黒だ。それが私はとても好きだった。
こういう映画の場合、男性目線で見た女性を美化したり、「こういう女って良いよな」みたいな感じで描きがちだが、そういう誤魔化しがないように思えた。
それは、荒井監督や祥子を演じたさとうほなみさんがインタビューで答えていたが、「女性ならこういう時、どう動くか?」というのを都度確認しながら意見を聞いて、どんどん演出を変えていたからだと思う。
荒井監督はもう70代だが、そのあたりの柔軟性はある方なのだなと驚いた。勝手に心配して申し訳なく思った。

正直、観る人をかなり選ぶ作品だと思う。
映画を観て得をしたいというか、いわゆる「これが分かった」とか「これを学んだ」みたいなことを求める方だと、おや…?ということになる気がする。観なくてもいいものは別に観たくないというタイプには、合っていない。分からないものを分からないままにしておけないと、おそらくこの映画から置いていかれる。「無駄に傷つく」とか「無駄に疲れる」みたいな感覚が嫌だと思う方は、観ない方が良いのかもしれない。
綾野さんがプロモーションのラジオでこの作品のことを「珍味と言えるかも」と話していたが、まさにその通りだと思った。

ただ、自分の人生の中で「やらかしたなぁ」とか「ああすれば良かったな」という心残りが一つでもあるなら、是非観てみて欲しいなと思う。
綾野さんが「この映画はレクイエムだ」と
話していたが、本当にそうだと思う。
救いがある。
過去から救われたい方は、是非観てみてもらいたい。
ひかる

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