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若き仕立屋の恋 Long versionのYKのレビュー・感想・評価

若き仕立屋の恋 Long version(2004年製作の映画)
4.0
仕立屋の青年であるチャンが、客の娼婦ホアに魅せられていく姿を描いている。チャン役を務めたのは、『ブエノスアイレス』で台湾からのバックパッカーを演じたチャン・チェン。主人公ファイの心を突き動かした明るい青年だったが、本作ではその印象とは裏腹な根暗で童貞臭い男を演じている。初めてホアの自宅を訪ねた際も、はだけた女性の姿を見てチャンはただ悶々とするのみだった(このときちゃんと股間が膨らんでいるのがこの映画のいいところ)。仕立屋としてだけでなく男としても半人前だったチャンに対し、ホアは「もっと女に触れなさい」と諭す。年上の女性に対し憧れにも似た恋心を抱いたチャンは、これを素直に受け取ることができず、以降ずっとこの言葉に支配されることになるのであった。

本作が撮影されたのは、SARS流行下にあった2003年の香港。描かれるのは60年代の世界だが、人と「触れ」合えないという状況からこの映画は生まれている。原題が「The Hand」である通り、劇中には手が印象的なカットが多い。ホアからもらったちまきを食べるシーン、ホアが着ていたドレスを仕立て直すシーン・・・いずれもチャンは、彼女のことを思い浮かべながらまるで愛撫するような手つきを見せる。それは、ホア以外の女性に触れることができなくなったチャンにとっての変態拗らせ行為だったが、画としてはどことなく哀しさ、切なさを感じるものになっている。もちろんホアに対しても、仕立てのための採寸以外で触れることはできなかった。「触れたい」のに一線を越えられない彼の心情は、触れたら感染してしまうという不安があった当時の世情を映したものであり、その一線は、コロナ禍で人と会うことを避けていたついこの前の世界にも存在していたものだ。「ソーシャルディスタンス」という言葉で味気なく片づけられるものを、こんなにもドラマチックな物語に昇華できるとは。ウォン・カーウァイの映画はどれもそうだが、時代の情勢や雰囲気を取り入れつつ、あくまで恋愛映画という体裁を保たせる手腕がすごい。
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