ルマンドウ

キリエのうたのルマンドウのネタバレレビュー・内容・結末

キリエのうた(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

岩井監督の作品は『ラストレター』、『チィファの手紙』を見たことあるくらいだったが、自分の人生の体験を想起させられるような物語と映像の美しさが印象的な作品を作り出している人だと思っている。

3時間くらいの上映時間で長いけど、全く退屈には思わなかった。それは物語の時間軸が複数あり、情報量があって助長なシーンがあまりなかったからだと感じる。

予告編通りかそれ以上にアイナ・ジ・エンドの歌声がフューチャーされている。いろんな感想で言われているのかもしれないが、キリエの歌にかなり大きな意味合いを持たせていて、ルカの唯一無二性みたいなものは強く感じられた。また、姉妹を一人二役でやるということも、時間軸がごっちゃになりかけたが、終盤の夏彦との再開あたりで意味合いが出てきたように思う。個人的には、髪型や服装をコロコロ変えながら怪しさを感じさせまくった広瀬すずの役どころも印象的だった。

夏彦と姉キリエの物語が思ったより重点的に描かれていた。夏彦がキリエにした一連の出来事(妊娠させた後の関係を有耶無耶にしようとして震災が起きて死別してしまう)は倫理的に受け入れ難い部分はあるが、目の前に自分の力ではうまく立ちいかない事象があった時に何かしらの力が働いて解放されたいという考え方は否定できない。夏彦の「(キリエが)見つからないでくれとも思うんです。」という言葉は、身勝手だけど自分の中にもある感情を見透かされているようで心に突き刺さった。

予告編ではそんなこと見せてくれなかったのにかなり夏彦とキリエの関係がじっくりと描かれていてそのこと自体は良いのだが、どうしても2023年側の物語が不完全燃焼気味に感じられた。特にバンドメンバーの中で名前とそれなりの役割が与えられているキャラの掘り下げをもっとして欲しいなとも思ってしまった。フウキンは途中のルカの不調に気づいたり、確固たる音楽観があったり、ラストの路上フェスで警察とのいざこざを気にせず演奏を始めたりと魅力的な要素があったので深く知りたくなった。サザンカも音楽的な知見が深く業界でも有名というポジションからルカと直接のやりとりがあってもいいのかなと感じた。

ラストのライブについては、警察の介入とイッカが刺されてしまうという2つの障害があってモヤモヤしてしまったところがある。ルカが最後騒音関係で後ろめたさなくライブをやり切ることで、イッカが会場に辿り着けなかったというハッピーエンドといかない部分がハッキリするのではないかと考えてしまったが、現実は都合のいいようにいかないということもあるのだろうなと感じた。現実の厳しさやうまくいかなさを真摯に描いているからこそ警察の介入(と許可証のあやふや加減)もやらなきゃいけないことだったのだと
思わされた。

誰かと語りたいし、見た途中・見た後でいろいろ考えてみたくなる印象的な作品だった。
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