AAA

キリエのうたのAAAのレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
3.6
charaの再来とも言えるアイナジエンドが放つ独特の雰囲気は岩井俊二の世界観を体現した存在だった。

石巻、大阪、帯広、東京と4つの場所でアイナジエンドの生い立ちが語られるが、3.11の描写にはやや疑問が残る。

3.11に関しては真正面からそれをテーマにするか、どのように復興するのかという部分に焦点を当てるべきなのではないかと思ってしまった。

決して登場人物の悲しみのバックボーンとして語られるような事ではないのではないんじゃないかと思ってしまう感覚というか。

姉アイナの妊娠や夏彦の進学、妹アイナの姉の喪失により声が出なくなるという描写に震災でなければならない理由があまりよくわからなかった。

けれども、揺れがあった後の津波を知る我々は、妹を探すシーンでタイムリミットが迫る事を登場人物たちは知らないけど、観客の我々は知っているという稀有な状況が生まれ、ゆっくりと進む展開にハラハラする状況の中で映し出されたドローンの俯瞰ショットは、その場所が数分後には失われるという事を知る我々にのみ感じ取ることのできる刹那的な美しさを持つショットでハッとさせられた。

結婚詐欺を働いて追われるすずと、家を追われたアイナが母なる海にて互いの喪失を埋め合うシーンは素敵で、地球じゃない場所のようだった。

最後のライブシーンは警察が止めに来ても歌うことをやめない権力への反抗のようなものが語られるが、それは音楽が持つ特性というだけで、アイナの人生を語る上では、色んな人の思いを背負ってこの声を出しているんだ。という描写に徹底すべきではなかったのだろうかと疑問が残る。
AAA

AAA