寺町今出川

PERFECT DAYSの寺町今出川のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2
観終わって…真っ先に頭に浮かんだのは開高健さんが好きだった言葉「漂えど沈まず」…そして、劇中でも度々現れる木もれびのやさしく揺らぐ光も心に残る。静かに揺蕩う(たゆたう)様な印象の作品。飄々淡々と生活する役所広司さんの表情の素晴らしさ、画面から伝わる物憂げな優しさと悲しさが余韻を残す、彼が過去に何かがあって今に至る人物造形をあえて深堀りしないで観る者に委ねる表現も余白を与えていて良かった。そして私には役所広司さんが同監督「ベルリン 天使の詩」の守護天使ダミエルにも見えた。ある意味、ひたすら役所広司さんを愛でる映画かも。「ベルリン…」が詩だとしたら…今作は俳句・短歌かな…。ヴェンダースが敬愛する小津安二郎の影響はやはり少なからず感じた…今作は台詞も少なく特に劇的な何かが起きるお話では無い…が私は凄く惹かれる映画だった。ニーナ・シモンの曲とラストショット抜群に素晴らしかったです。
「Spotify?その店どこにあるの?」

シネマポイント使って何観るかで最近1番余韻残った今作を再度鑑賞。

私は今作のキャッチコピー「こんなふうに生きていけたなら」が全くしっくり来ない。私は平山は死んでいる、もしくは8割9割死んでいて単に肉体が死んで無いので日々を送る人間の様に感じた。ルーティンを執拗に描く事で特にその部分が浮かび上がった気がする。だが、生きている1割位の中で出来る限りの事はしたいし満足感は得たい、それは完全に自己満足でエゴに過ぎない、排除されはっきり描かれない平山が捨て去り逃げた9割からは干渉されたくないし既に思い出す心も喪失している…非常に自分勝手でもある。そして、今の日々の生活でも、ある意味、感情が振れるのも好まないし今や余り激しい感情も湧かない、人間関係を深める気も無い、そこまで行き着いてしまった人間…しかしながら、生きていて働いていて全く人間関係無しでは過ごせないし、日々のペースが狂う事もある、家族を含め過去も自分を唐突に追いかけては来る、それは彼の死んだ感情に怒りや悲しみ戸惑い、ちょっとした楽しさや喜びを与える、ペースを乱されたくないルーティンと常に表情を変える木漏れ日が作品中で共存するのに似ている。そして1人で好きな曲を聴いていたり眠る夢の中でフラットラインの彼の心にふいに波形が生まれる…この表現・表情に私は強く共感し感激した。…ただ…そんな人の事を「こんなふうに生きていけたなら」と本当に思いますか?
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