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PERFECT DAYSのRのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

映画館で。

2023年の日本の作品。

監督は「パリ、テキサス」のヴィム・ヴェンダース。

あらすじ

東京、渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司「窓ぎわのトットちゃん」)は毎日、同じような時間に起きて、同じように働く、静かで平凡な日々を送りながらも幸せに生きていた。そんな平山の慎ましい日々に思いがけない出来事が起こる。

公開を知ってから、「こりゃ絶対良い作品!」と思って公開翌日に観に行こうしてたんだけど、予定が合わず、ならばどうせだったら2023年の年の瀬、今年最後に劇場で観る一本にしたら、相応しいのではと思い、ようやく鑑賞してきました。

で、製作はどうやらここ日本らしいんだけど、なんといっても注目は今作を撮った監督、ヴィム・ヴェンダース。去年かなんかの愛聴するラジオ番組「アトロク(現「アトロク2」)でゲストで来ていたスタイリストの伊賀大介氏が関わっていることが本人の口から明言され、そん時に宇多丸さん他がめちゃくちゃ騒いでいても全然ピンとこなかったように、俺自身、すみません💦恥ずかしながら未だに一本も監督作を観たことがなかったんだけど、パンフによるとドイツの名匠の1人であり、代表作「パリ、テキサス」や「ベルリン・天使の詩」など数々の名作を世に発表し、80年代、90年代のミニシアターブームを牽引したという、まさに名監督。どうやら日本の名匠小津安二郎とも交友があって、作品内のナレーションも担当したんだとか。

で、そんな監督、なぜここ日本を舞台にした作品を作ろうと思ったのかと言うと、元々「THE TOKYO TOILET」という渋谷のトイレをリノベーションし、今までの公衆トイレのイメージを刷新するプロジェクトがあって、で面白いのがこの新しいトイレには専門の清掃員がいて、この清掃員を舞台にした映画を作ろうとなってヴェンダース監督が抜擢されたというわけ。

へぇー、そんな動きがあったんだな。俺自身コロナ禍になってから、ここ2、3年は全く東京とは縁のない生活を送ってるけど、服を買いに行くか、街コンに出掛けた時に使った公衆トイレは確かに都会らしく、汚らしかったもんなぁ笑。

で、そんな本作で出てくる公衆トイレはやはり数々のデザイナーが手がけたリノベーションなだけあって、かなり個性的。例えば、白とチャコールのキノコが並列してるようなやつだったり、でっかい壁で囲まれた迷路みたいな奴だったり、ジャングルの宮殿みたいな、室内が輪切りした木のインテリアがあるやつだったりと一つ一つがとってもオシャレ。

中でも、劇中で1番良く出てくるのが3色で淡く色付けされたガラスの箱が三つ隣接されてるトイレ!中、ガラスで透明だから丸見えじゃん!と思ったら、中に人が入るとフッと色が濃くなって中が見えなくなるというめちゃくちゃ前衛的なデザインだよなぁ。

ただ、これらトイレ、自分だったらちょっと落ち着いて用を足せないとも、ちょっと思ったり笑。やっぱ東京の人の考えてることは先に進みすぎててわからんな笑。

で、そんなトイレの専門の清掃員、平山を演じた役所広司がやっぱめちゃくちゃ良い!!

冒頭、近所の道路を掃除しているおばさんの箒で掃く音で目覚めると、布団を畳んで、歯を磨いて、顔を洗って、髭を剃って、清掃員の服に着替え、木に水をやって出かけるという、多分毎日やっているんだろうなぁ…という感じの毎朝のルーティンを無駄なくやっている描写から始まるんだけど、やっぱそれを日本が誇る名優、役所広司がやっているから、どこか「品」がある。特に仕事先に車に乗って出かけた後、スカイツリーが見える辺りくらいから、陽光が差し込む中、カセットでかかるThe Animalsの「The House of Rising Sun」にのせて、「今日もやるぞー!」みたいな表情をしながら運転するところとかすげぇ…味わい深い。

で、そんな平山さん、今作の注目ポイントでもあるんだけど、マジで冒頭15分から20分くらい、出ずっぱりなのに一切セリフがない。毎朝のルーティンからの仕事先に向かい、どうやら作品のために実際の清掃員の「先生(役所広司さんが尊敬の意を込めてそう呼んでたらしい)」に指導を受けた賜物か、ここでも無駄が一切ない、かつものすごく丁寧な職人技でトイレを磨き、ピッカピカに清掃する段階に入ってもまだセリフがない!恐ろしいのはその後、仕事に対してルーズな柄本時生(「宇宙人のあいつ」)演じるタカシが遅れてやってきて、いけしゃあしゃあと馴れ馴れしく声をかけるんだけど、そこでも所作だけで声も出さない。後々、タカシの紹介で「無口で変わっている人」という説明が入るんだけど、徹底してるよなぁ。同じ独り身の俺ですら、誰にも会わずに食事の買い物に行くくらいで一日が終わっちゃってても、もっと声出してるわ笑。

で、そんな平山さんの毎日が綴られるんだけど、そんな序盤からの流れからも分かる通り、大体1時間くらいはほとんど何も起こらない。

そのうちに朝、起きて仕事に行くだけでなく、仕事が早く終わった日(多分仕事のシフト上、早かったり、遅かったりするんだろう)や休日には清掃員の服をランドリーで洗濯したり、趣味であるカメラのフィルム印刷をしにカメラ屋に行ったり(まだこういうところあるんだなぁ。)、銭湯に行ったり、寝る前に読む小説を漁りに古書店に行ったりするんだけど、確かに大きな変化や出来事はないんだけど、一つ一つの描写がとてつもなく充実してるというか…良いなぁ。

特に平山さんが足繁く通う、多分ちょっと惚れてるんじゃないかなっていう感情が伺える、石川さゆり(「峠 最後のサムライ」)演じる女将が切り盛りする居酒屋のシーン。

ここでも女将と会話を交わし、静かに晩酌しているんだけど、そのうちに他の馴染みの客に囃されて、女将が歌いだすんだけど、歌うのが、あの「天城越え」の紅白常連の石川さゆりだし、急にどっから出したのかギターで伴奏をつける客も、なんとフォークシンガーあがた森魚(「函館珈琲」)だしで、なんつーか、シーンとしては都会の片隅の小さな居酒屋のシチュエーションなのに、出来過ぎてるよ…。

ただ、そんな生活の中でも少しずつ、変化が。例えば、序盤だと、ダメな後輩タカシがガールズバーのアヤ(アオイヤマダ「唄う6人の女」)と仕事終わりにデートにそのまま行こうとするものの乗っていたバイクが故障してしまって、しょうがなく車を貸すために同行するくだり。

車内では、金髪でスマホポチポチの見るからに今どきっぽい子のアヤが平山さんのカセットの曲、パティ・スミスが歌う「Redondo Beach」を聴いて、一気に気に入ってスマホで検索をかけているのを後部座席からほくそ笑む平山さんだったり、アヤを仕事先に送り届けた後、タカシが、「アヤと上手くいくためには、金がねー!平山さんこのカセットプレ値ついて売れるんじゃね?」と興味本位で出向いた下北のレコード屋で、確かにカセット一本一万越えすることがわかり、タカシが無理やり売ろうとするのを制した後、まだ金がねー!勝負の日なんすよ!と五月蠅い、タカシのために泣く泣く金を貸す平山さんだったりとそれまでにない平山さんのちょっと違う一面を見れて作中ここだけちょっとコミカルなシーン演出もあって良かった。

ただ、ここで出てくるタカシやアヤ。確かにアヤは車から出る時にサラッと平山さんのカセット盗んじゃうし、タカシは言わずもがなデリカシーがない、言っちゃえばクズだったりと、それまで平山さんの慎ましさをこっちは堪能してるもんだから、例えるなら澄み切った水面に墨を流すような存在にも感じられるんだけど、アヤはその後ちゃんとそのカセットを平山さんに返して、「もう一度聴いていい?」と車内で平山さんと一緒に曲を聴いた後、感謝の印とばかりにほっぺにキッスをしてくれたり、特にタカシに関しては、柄本時生の演技と相まって、仕事も適当だし、上記のシーンではダメンズっぷりを遺憾無く発揮していたりと、めちゃくちゃ好感度が落ちてたところ、その後の仕事の合間に急に仕事先に訪れたダウン症の幼馴染と接している様を見て印象がガラッと変わった。

ここは観る人が観たら障がいを持ってる人だからだろと穿った見方をする人もいるかもしれないけど、実際に職場で障がいを持ってる子とも関わるあくまで個人的な目線から見ると、障がい者の人って人との距離が近くて、まぁそれが愛嬌があってとっても可愛いんだけど、だからこそ今作の彼のように「いきなり耳を触られる」というスキンシップがあっても、嫌な顔せず、分け隔てなく触れ合いながら、ちゃんと面識のない平山さんにも彼のことを紹介するタカシの姿を見て、あぁ、この人は多分どんな人にもいい意味でも悪い意味でも壁がないんだなとちゃんとわかって、だからこそ、ここで不意に涙が出てしまった。

まぁ、ただその後、急に電話で「仕事辞めます」とシフトもなにも全部ブッチして平山さんに自分の仕事全部丸投げしちゃうのはいただけないけど、まぁ現実はこんなもんなのかも。

で、お話としての大きな変化はその後、いつものように仕事を終えてアパートに帰るとそこには知らない女の子が平山さんの帰りを待っていた。その女の子、ニコ(中野有紗)はどうやら平山さんの妹(麻生祐未「三屋清左衛門残日録 ふたたび咲く花」)の子、つまり平山さんにとっては姪っ子なんだけど、どうやら家出したらしく、そのまましばしの年齢も環境も異なる2人の同居生活が始まっていく。ニコの登場という「変化」によって、それまでの慎ましい生活にも一緒にトイレを掃除したり、銭湯にそれぞれ入って「20分ね」と待ち合わせしたり、車内で曲を聞いて「Spotify」に対する平山さんの勘違いに笑ったりと小さな「彩り」が加わっていくんだけど、とくに良かったのは、いつものように休憩時間、近くの神社でベンチに座りながらサンドイッチを食べるところにニコも加わるシーン。同じようなタイミングで平山さんは牛乳を、ニコはいちご牛乳を飲んで、平山さんが過去に贈ったらしいカメラを2人がそれぞれ持ち、「木漏れ日」を見上げるシーンの美しさたるや…。

元々、本作、カメラの画角が縦に長くて、両端が黒い、まさにミニシアター系に良くありそうなフィルム形式で撮られているんだけど、そのシーンがマジで美しすぎて、平山さんにとってのかけがえのない「特別な一瞬」を切り取ったようで、マジで今作の白眉、めちゃくちゃ良かった。

その後、迎えにきた妹にニコを送り届け、また普通の日々に戻った後、女将の元に謎の男トモヤマ(三浦友和「親のお金は誰のもの」)が現れて、抱き合っているのを目撃!ビールと吸わないタバコを買って明らかに平常ではない平山さんが見られたりするんだけど、それでも最後はまた、普通の日々に戻っていく。

クライマックス、トモヤマとのまた特別な出会いの後、いつものように仕事先に出かける車内、ニーナ・シモンの名曲「Feeling Good」にのせて運転をするラストシーン。

「夜が明けて、新しい一日が始まる
 私は私の人生を生きる。

 最高の気分だわ」と歌うニーナ・シモンの歌に堪えきれない涙を湛え、微笑みながら、それでもまたトイレの清掃というかけがえのない仕事に向かう…。そして、東京という都会に差し込む朝焼けのラストショットで終わるエンド…いやぁ、「いぶし」が「銀」すぎるわっ!!

一つ、本作で印象的な平山さんのセリフがあって、それが「この世界は本当はたくさんの世界がある。繋がっているように見えても、繋がっていない。」というもの。

他の映画や歌でもなんでも「世界はひとつづきで、繋がっている。」なんて言及はよくあるけど、「1人の清掃員の慎ましい日々」を描く今作を観ると、そんな平山さんの言葉には大いに納得ができる。

ただ、では俺が今作の謳い文句にある「こんな風に生きていけたら」と思うかと言えば、まだそんな風に思える境地には至っていないというのが正直なところ。

それは「自分がいる世界」と「平山さんの世界」が繋がっていないと思うから。でも、それでいい。だったら、自分の世界の中にも、平山さんが毎日の中でかけがえのない「木漏れ日」を見つけたように、自分だけの「木漏れ日」自分だけの「PERFECT DAYS」を見つければ良い、そんな風に思えるかけがえのない一本でした。

と、そんな感じで年末最後に相応しい作品を観れたところで2023年度の個人的ベストは以下!

1位 「ジョン・ウィック:コンセクエンス」

2位 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシ    ー:VOLOME3」
3位 「雄獅少年/ライオン少年」
4位 「ミッション:インポッシブル/デッド・レコニング PART ONE」
5位 「スパイダーマン:アクロス・ザ ・スパイダーバース」
6位 「BLUE GIANT」
7位 「ザ ・フラッシュ」
8位 「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」
9位 「長ぐつをはいたネコと9つの命」
10位 「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」

となりました!!

いやぁ、今年はなんだかんだアメコミとアニメが個人的には座巻する、そしてなんだかんだ1位は大好きなジョン・ウィック!という、あんまり意外性のない一年となってしまいましたな笑

来年はどうなるかわからないけど、またたくさんの良い作品と出会えることを期待して、皆さんよいお年を!!
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