神が意図

PERFECT DAYSの神が意図のネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

判を押したような繰り返しの生活を送る主人公が日常の何気ない出来事に幸福を見出していく、という筋だけ追えば、国内外を問わずあらゆる著作において近しいものはあるだろう。ただ、さすがはヴェンダース。いきすぎないユーモアで"豊かさ"を鮮やかに切り取っている。後半のタバコのシーンの素晴らしさはもちろんのこと、時おり不自然に交差する会話や、度々映る木造アパートには不釣り合いなLEDの光に笑みが溢れた。ルーリードのカセットテープは一万円で売れるかもしれないけれど、そんなお金に何の価値もないのだ。カーステレオのくぐもった音響はノスタルジーとは別の次元で若者たちの心を掴み、平山の暮らしにもささやかな潤いをもたらす。

ニュースでは巨大な資産や地位、権力を築いてきた政治家や芸能人が、不埒な交友関係や金銭的な悪事を暴かれて失墜している。平山の(外から見れば)朴訥とした人生こそが正しいのだというつもりもないが、やはり教養は身を助けるのではないかと、真の豊かさについて考えてしまう。どれだけ苦労を重ね成功しても、辿り着くのが破廉恥なパーティなら虚しすぎるではないか。ニコの母親の様子を見るに、おそらく平山は裕福な出自なのだろう。それでも彼は、公共トイレの清掃を生業とすることにしたのだ。

スマートフォンやラップトップ、TV、ゲーム機、ワイヤレスイヤホン、Wi-Fiのモデム、モバイルバッテリー……。利便性を求めてデジタル機器を買い揃える僕の部屋は、それぞれを充電(給電)するためのコード類で雁字搦めになっている。かたやスマホすら持たない平山の畳の部屋にはそれらが一切なく、羨ましくなってしまう。

そして、役所広司という俳優の底知れなさ。表情だけで人生の悲喜交々を表現しきるラストシーンの長回しに感情が揺さぶられた。

「こんなふうに生きていけたなら」というキャッチコピーはやや押し付けがましく、この映画の本質ではないように個人的に感じる。その人にとってのパーフェクトな日々を生きることに意味があるんじゃないだろうか。
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