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PERFECT DAYSのloomerのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
「役所広司+ヴェンダースの超良質な映画」であるのは間違いないと思うんだけど、なんというか「ファッション清貧」とでもいうような脱臭された「慎ましくていねいな暮らし」が看過できないレベルで鼻につく作品でもあった。

役所広司が演じる平山はトイレ清掃員というブルーカラーでありながら、彼が清掃を担当するのは意匠をこらした綺麗なトイレのみ。東京にはそんなトイレしかありませんとでもいうように…。古いアパートに住みながらも貧乏ではない暮らし方(アパートだがメゾネットのような間取り、毎日外食、毎日銭湯、使う洗剤は割高な個包装タイプ、スーパーは登場せずコンビニのみ、おまけに育成ライトを24時間使用、私服は地味ながら新品のよう、趣味のフィルムカメラ(オリンパスμ)はきょうびとても贅沢な趣味、などなど)。彼がプリントしたボツの写真を躊躇いもなく破り捨てるのをみて、ちょっと「ぐぬぬ」となった。プリント1枚だってお金がかかるんだぞ。

彼の暮らしは嫌というほど文化的だ。行きつけの古書店があり、行きつけのカメラ店があり、植物を大事に育て、行きつけの飲み屋のママは紅白に出られそうなほど歌がうまい(これはあんまり関係なかった)。

途中、なぜ彼が文化的な生活をしているのかを察せられる展開があり「ああ、彼は「下りてきた人」なんだな」と納得した。このくだりがなかったら、この映画は結構いらいらしたかもしれない。

あとから友だちに教えてもらったが、もともとファーストリテイリング(トイレプロジェクト)と電通、渋谷区の企画から始まった映画なのだという。そこにヴェンダースがよくはまりこんだな!とびっくりする。

ポスターを改めて眺めてみると「こんなふうに生きていけたなら」とある。それは本当にそう。映画としてはとても美しい。選曲も最高だった。途中若い女の子にぽーっとなるくだりは、本当に見てらんないと思ったしあの場面は要らなかったと思うけど。そんな形で「平山の異性への免疫のなさや平山の朴訥な魅力が若い女に通用する」みたいなことを描かないでほしかった。

あれこれ書いたけれど、この違和感は、日本が舞台であることによって、画面の中が解像度高く見えてしまう弊害なのかもしれないとも思っている。きっと海外の映画でも異国フィルターで見落としていることがたくさんあるんだろう。
いい映画だと思うし役所広司は本当に素晴らしい役者だと思うけれど、そんなきれいごとだけじゃないよなと真っ先に思ってしまう。世の中を見る目が濁ってしまった己の悲しさを目の当たりにする作品。

トイレ清掃員というブルーカラーに主人公を置き、主人公はその環境に満足し受け入れるという映画を行政と大企業がスポンサーとなって作るってやっぱり結構グロテスクに思えてきた。
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