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PERFECT DAYSの896のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.8
近くにありすぎて、ありふれすぎているからこそ見失いがちな、日常の中に潜む美しさ

それは時に外的で、時に内的
時に自然的で、時に人工的
時に動的で、時に静的
様々な姿かたちをした「美」を感じ取るには、物質的豊かさからある程度距離をとる必要があるんだろう
そんな日々を送る平山の生活こそが「PERFECT LIFE」なんだ……
というわけでもなさそう

そもそも本作は「これが幸福だ」と規定するような話ではなく、幸福を見出す精神性についての話だと思うし、実際に視聴者も、平山の生活を眩しく感じても、そこに近づきたいと思う人は稀なんじゃないか

平山は自らの生活に満足している様子だが、それは極めてミニマルなイデオロギーの中で生きているからだとも言える
本当に大切だと思える人とも意識的に一線を引いているし、そこから外に出ることで今の「完璧」が崩壊してしまうと気づいている。また、そんな自分のままでいいのかどうかも分からなくなってきた。
そんなアイデンティティのせめぎ合いを、首から上の演技だけで表現しきったラストシーンはまさに圧巻。役所広司、面目躍如。

自己矛盾に苦しみながらそれでも生きていく。哀れで美しい人間という生き物の尊さが胸に染み入る、無二の一作でした
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