arika

PERFECT DAYSのarikaのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

「影って、重ねると濃くなるんですかね。」
「変わらないなんて、そんな馬鹿なことないですよ」

どうしてヒラヤマは繰り返される、変わらない日々を、あたかも初めてかのような表情で楽しめるのだろう。
上映中、ずっとこの疑問が心の隅にあった。

しかし違った。
ヒラヤマにとって、繰り返される、変わらない日々なんてそもそも存在しない。
朝にホウキの掃く音で目覚め、公衆トイレの掃除をし、銭湯へ行き、居酒屋で飲み、布団に入って本を読み、眠る。
表面上は何の変化もない、変わらない日々だ。

しかし、ヒラヤマは、この日常の中で様々な変化を楽しんでいる。
朝外へ出る時、毎回初めて外に出た赤ん坊のような好奇心に満ちた表情をする。
その日によって、雲の形も違えば、照らしだす光や影、すれ違う人々、全く同じ日なんて存在しない。

とにかく役所広司さんの演技がとんでもない。
昨今のセリフ過多な映画が多い傾向に、どうしても賛同できない私にとっては、素晴らしい作品であった。
セリフ過多は、作品の概要やテーマなど、伝えたいことを言葉にすることで伝わりやすくなるが、役者の演技の技量というものを無視する。
もしかしたらこのセリフ過多が原因で、かつての三船敏郎さんや勝新太郎さんのような魅力的な俳優が消えつつあるのかもしれない。
セリフが少ないということは、表情で心情を伝えるしかなくなる。
役所さんの表情だけで、私のような者にもヒラヤマの心情がひしひしと伝わってくる。

日々がつまらないと漏らしがちな現代人全員に見てほしい日々、perfect daysがこの映画にはある。

小津安二郎監督を敬愛するヴィムヴェンダース監督らしい、心地よい日常がある。
朝起きて、学校や仕事に行く前に毎日でも見たい作品だ。
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