たろ

PERFECT DAYSのたろのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

主人公を含め様々な人々が見せるルーチンは何かの楽器を調律するみたいな、緩やかな心の安定を与えてくれる。傷を癒す為だったり、何かを忘れる為だったり、ただ機械の様にシステマティックに生きるという事ではなく、人間が享受できる喜びを持続させる為に小さな儀式を行い、ピントを合わせる事で日常の中で垣間見れる小さな喜びや幸せをより認識する事ができる素晴らしさがあるのではないか。

しかし、どれだけ自分のルーチンを持って生きようと試みたり、他者の世界との繋がりを出来る限りシャットアウトしようとも、街という人間で構成されたコロニーでは他者とのイベントが必然的に生まれてしまい、ルーチンが乱されてしまう。『〇〇になり〇〇になった』みたいに偶然を装った必然が引き起こされ、他者の世界との衝突は避けられない。その乱れが自分にとって良い乱れであったり、感情を逆撫でする様な乱れだと文字通りのマイナスな乱れになってしまう。

主人公はその乱れを笑顔で受け止め、流す事で緩和している印象があった。音楽、文学、写真、飲酒、それらは乱れを整えてくれる装置の役割を担っていて、近代のリベラルアーツの定義の一つに「実用的な目的から離れた純粋な教養」というものがあるが、自分の理想とする自由な世界を守る為に主人公は頑なにアナログな世界観を頑なに守ろうとした。Spotifyを店だと思ったり、カセットや紙の本などがその例かと。

ミニマムな映画な様で全くミニマムではなく、影に隠れた揺らぎの様な静かだが巨大な動きを常に捉え続けた映画だと思った。
たろ

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