ピンクピン太郎

PERFECT DAYSのピンクピン太郎のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
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現実だった、平山のような人が住む世界の情景と視点をここまで表現出来たことが恐ろしい。
まず、トイレの清掃員.と言っても一概に皆同じ世界に住む人ではない。平山の家は裕福でそして厳しい躾のもと育ったことが妹の身なりと会話で分かった。父親によって植え付けられたトラウマが平山の住む世界を変えた。
家父長制の権化.みたいな家庭に生まれた子どもは比較的裕福な幼少期を過ごすが、大人になっていく過程で植え付けられた種が開花し、その頃にはもう心の隅まで根が張ってしまっている。ここで、父親の洗脳が解けなければいわゆるエリートが住む世界へ。心が折れてしまった子どもは、今を生きる小さな世界へ行く。
人々から嫌煙される仕事を真面目にこなし、もうこれ以上折れた心が揺さぶられないようできるだけ丁寧に、変わらない生活を続けていく。
低賃金で生きている平山の姿勢や暮らしがあまりにも整っているから、最初は現実味のない嘘くさいアートフィルムだと思って見ていた。だけど、その背景が見えたときにあまりにも現実を捉えていて驚いた。私も平山と同じ世界に住んでいるから。そして、仕事の仲間や友人で同じような背景を持つ人たちを何人も知っているから。
そして、自分が職業というラベルで人を抽象的にしか見れていないことに気がついて失望した。人間の数だけ影があるのに。

私ずっと、世界は繋がっているのではなく、重なっていると思っている。見えているものだけが世界ではなく、私の皮膚の内側も世界だし、長く進んだ先にある見たこともない景色も世界。それぞれの世界はちゃんと存在している。光が射し込んだ先でその世界が重なったときに、色が濃くなることを知っている。