いち麦

エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命のいち麦のレビュー・感想・評価

5.0
19世紀イタリアが舞台となる史実ベースのドラマ。幼少期にエドガルドがカトリックの洗礼を受けてしまった何とも不条理で不運な経緯。ボローニャの家族の側から見知らぬローマの教会へ拉致された幼い少年エドガルドが、生きるために教皇の下で過適応し、やがてカトリック教会に洗脳されていくことは容易に理解できる。少年の身体だけでなく心まで奪い、作り変えてしまった宗教組織の強硬さに不快な気持ちになった。ドラマが進むにつれ、カトリック教徒vs.ユダヤ教徒、宗教vs.法律、権力vs.大衆…といった様々な対立構造が見えてくる。現代でも法の下に家族の実情に合わぬような子供の親権が決められてしまう憂慮すべきケースがある。愛情ある親の元から公権力が子供を引き剥がす行為は、今の世のこの問題にも重なって見え考えさせられた。
隠れんぼのような子供らの遊びでエドガルドに贔屓する様子など、教皇ピウス9世の俗っぽさ嫌らしさが人物像の別の側面としてよく表れていた。青年は敬虔なカトリック教徒になってはいるものの、教皇に対しては複雑な思いを抱いていると窺われる描写が幾つか見られ興味深い。この時代に世界的世論を味方にしたとはいえ、市民たちが教会側を相手に闘争を起こした力強い姿は自分には意外で新鮮に映った。でも本当は教皇への市民の不満はもっと多岐に亘っていたのかも知れない。様々な問題でカトリック教会が新しい時代の倫理観や価値観に目を背け自らの利権維持に躍起になっていた象徴だったのだろう。見応え感たっぷりの秀作だった。
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