千年女優

落下の解剖学の千年女優のレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.0
夫と視覚障害のある息子とフランスはグルノーブルの山荘に移住した作家で、大音量で音楽が鳴り響くために女学生からのインタビューを中断したサンドラ。数刻後、飼い犬と散歩に出ていた息子が夫の転落死を発見して警察に逮捕された彼女の容疑を巡って、生前の不仲も含めて様々な憶測が飛び交う法廷の一部始終を描いた法廷ドラマです。

パリ国立高等美術学校出身で注目の女性監督として将来を期待されていたジュスティーヌ・トリエがパートナーのアルチュール・アラリ協力の下で制作した2023年公開の作品で、ザンドラ・ヒュラーが主演を務める法廷映画の古典『或る殺人』の原題『殺人の解剖学』を捩った物語が絶賛されてパルム・ドールとパルム・ドッグを獲得しました。

スキャンダラスなワード解禁が「真実」を求める物語と映画に二重の深みを与えた古典を見事な手腕で転用していて、「客観」が重んじられる法廷を舞台としながらそれでも人である以上避けては通れぬ「主観」を多角的な筋書で彫り上げます。物語や映画、つまりは人が「真実」以上に必要とするものがあることを問う、機知のある一作です。
千年女優

千年女優